――「肺が硬くなる病気」を基礎から最新治療までわかりやすく深掘りする
「間質性肺炎」と聞くと、多くの人は「普通の肺炎の一種かな?」と思うかもしれません。肺炎という名前がついているため、細菌やウイルスが肺に感染して、熱が出て、痰が出て、抗菌薬で治療する病気をイメージしやすいからです。

しかし、間質性肺炎は、一般的な肺炎とはかなり性質が違います。
普通の肺炎では、主に肺胞という空気の入る袋の中に炎症や膿、分泌物がたまります。一方、間質性肺炎では、肺胞の「壁」やその周囲の支持組織、つまり「間質」と呼ばれる場所に炎症や傷害が起こります。その結果、肺の壁が厚くなり、硬くなり、酸素が血液へ移動しにくくなります。進行すると、肺はスポンジのようなしなやかさを失い、硬いゴムのようになっていきます。難病情報センターも、間質性肺炎では肺胞壁に炎症や損傷が起こり、線維化によってガス交換が障害されると説明しています。
この病気の怖さは、「息が苦しい」という症状だけではありません。肺という臓器が、単なる空気の通り道ではなく、全身の細胞へ酸素を届ける生命維持装置であることを考えると、間質性肺炎は「呼吸の病気」であると同時に、「全身のエネルギー供給システムの病気」でもあります。
この記事では、間質性肺炎について、初心者にもわかりやすく、しかし専門職が読んでも興味深いように、基礎から病態、診断、治療、リハビリ、そして2026年時点の最新治療・研究までを一気に整理していきます。
※本記事は医学的知識の解説を目的としたものであり、個別の診断や治療を指示するものではありません。息切れ、長引く咳、健康診断での異常影などがある場合は、呼吸器内科で相談してください。
- 間質性肺炎を理解する鍵は「肺胞の壁」にある
- 間質性肺炎は一つの病気ではなく「疾患群」である
- 肺はなぜ硬くなるのか――「傷の修復」が暴走する病態
- 症状は「空咳」と「動いたときの息切れ」から始まる
- 診断で重要なのは「問診」「HRCT」「呼吸機能」「多職種カンファレンス」
- 治療は「炎症を抑える」「線維化を抑える」「原因を避ける」「生活を支える」の組み合わせ
- 2026年の大きなニュース――ネランドミラストという新しい選択肢
- 急性増悪――間質性肺炎で最も警戒すべき局面
- 呼吸リハビリは「肺を治す」より「生活を取り戻す」ためにある
- 在宅酸素療法は敗北ではなく「活動を支える道具」である
- 日常生活で大切なこと――禁煙、感染予防、栄養、早期相談
- これからの間質性肺炎研究――分類から個別化医療へ
- まとめ――間質性肺炎は「肺が硬くなる病気」
間質性肺炎を理解する鍵は「肺胞の壁」にある
肺の中には、肺胞という小さな袋が無数にあります。私たちが吸った空気は気管、気管支を通って肺胞まで届きます。そして肺胞のすぐ外側には毛細血管が走っています。酸素は肺胞の中から肺胞壁を通り、毛細血管の血液へ移動します。反対に、二酸化炭素は血液から肺胞へ移動し、吐く息とともに外へ出ていきます。
この「酸素と二酸化炭素がすれ違う場所」が、肺胞の壁です。
間質性肺炎では、この壁が炎症や線維化によって厚く、硬くなります。すると、酸素が血液に届くまでの距離が長くなります。さらに、肺そのものが膨らみにくくなります。つまり、間質性肺炎では「酸素が通りにくい」「肺が広がりにくい」という二つの問題が同時に起こります。
初期には、安静時には症状が出にくいことがあります。なぜなら、安静時の酸素需要はそれほど大きくないからです。しかし、坂道を歩く、階段を上る、入浴する、排便する、荷物を持つといった場面では、体がより多くの酸素を必要とします。このとき、肺が酸素需要に追いつけず、「労作時息切れ」が出てきます。難病情報センターも、主な症状として痰を伴わない咳、つまり乾性咳嗽と、労作時呼吸困難を挙げています。
ここで重要なのは、間質性肺炎の息切れは単なる体力低下ではないということです。もちろん、活動量が減ることで筋力や持久力も低下します。しかし根本には、肺胞壁の変化によるガス交換障害があります。だからこそ、単に「運動不足だから歩きましょう」と言うだけでは不十分で、病態、酸素化、運動時のSpO₂、疲労、栄養、心理面まで含めた総合的な支援が必要になります。
間質性肺炎は一つの病気ではなく「疾患群」である
間質性肺炎という言葉は、実は一つの病名というより、「似た特徴をもつ病気の大きなグループ」を指します。
原因がわかっているものもあります。たとえば、関節リウマチ、皮膚筋炎、強皮症などの膠原病に伴う間質性肺疾患。カビ、鳥、加湿器、農作業、木材、羽毛布団などの慢性的な吸入が関係する過敏性肺炎。薬剤、漢方薬、サプリメント、抗がん剤、放射線治療などに関連する薬剤性・治療関連の肺障害。アスベストや粉じんなど職業性曝露によるもの。感染後、喫煙関連、遺伝的背景が関係するものもあります。
一方、詳しく調べても原因が特定できないものを「特発性間質性肺炎」と呼びます。特発性とは、「現時点で原因が明確にわからない」という意味です。日本では特発性間質性肺炎は指定難病85に該当します。
特発性間質性肺炎の中で代表的なのが、特発性肺線維症、英語でIdiopathic Pulmonary Fibrosis、略してIPFです。国内で病型が確認できた特発性間質性肺炎のうち、IPFが最も多く、難病情報センターではIPFが62%、特発性非特異性間質性肺炎、つまりNSIPが15%、特発性器質化肺炎、つまりCOPが12%程度と紹介されています。
ここが専門的に面白いところです。同じ「間質性肺炎」でも、炎症が主体のもの、線維化が主体のもの、ステロイドに反応しやすいもの、抗線維化薬が中心になるもの、急激に悪化するもの、比較的ゆっくり経過するものがあります。つまり、間質性肺炎では「間質性肺炎ですね」で終わってはいけません。「どのタイプの間質性肺炎なのか」「原因はあるのか」「線維化は進行しているのか」「炎症主体なのか」「膠原病や曝露は隠れていないか」まで見極める必要があります。
2025年には、国際的な間質性肺炎分類のアップデートも発表され、特発性だけでなく二次性の原因も含めた枠組みで、間質性肺炎を再整理する方向が示されています。間質性肺炎は約200の希少疾患を含む傘概念として扱われ、線維化性・非線維化性の間質パターン、肺胞腔内を主体とするパターンなど、画像・病理・臨床を統合した理解が重視されています。
肺はなぜ硬くなるのか――「傷の修復」が暴走する病態
間質性肺炎、特にIPFを理解するうえで重要なのが、「炎症だけでは説明できない」という視点です。
昔は、IPFも炎症が長引いて線維化する病気だと考えられていました。そのため、ステロイドや免疫抑制薬によって炎症を抑える治療が試みられてきました。しかし、その後の研究で、IPFでは単純な炎症よりも、肺胞上皮細胞の繰り返す傷害と、修復過程の異常が重要だと考えられるようになりました。難病情報センターも、IPFでは肺胞上皮細胞の繰り返す損傷と修復・治癒過程の異常が主たる病態と考えられていると説明しています。
たとえば皮膚を切ったとき、傷は一時的に炎症を起こし、その後、線維芽細胞が働いてコラーゲンなどを作り、傷をふさぎます。これは本来、体を守るための反応です。しかし、肺でこの修復反応が過剰に、しかも繰り返し起こると、肺胞壁に線維成分が沈着し、肺の構造が少しずつ作り変えられてしまいます。
専門的には、線維芽細胞、筋線維芽細胞、細胞外マトリックス、TGF-β、上皮間葉転換、免疫細胞、血管内皮、老化細胞、遺伝的素因、環境因子などが複雑に絡みます。けれど、初心者向けに一言で言えば、「肺の傷を治そうとする反応が、逆に肺を硬くしてしまう病気」と表現できます。
この視点に立つと、治療の考え方も変わります。炎症を抑えるだけでよい病気なら、ステロイドが中心になります。しかし、線維化の進行が主体なら、線維化の速度を抑える薬が重要になります。これが、抗線維化薬という考え方です。
症状は「空咳」と「動いたときの息切れ」から始まる
間質性肺炎の初期症状として代表的なのは、乾いた咳と労作時息切れです。
咳は、痰がからむ湿った咳ではなく、コンコンとした乾いた咳であることが多いです。もちろん、感染や気管支炎を合併すれば痰が出ることもありますが、典型的には「痰が少ないのに咳が長引く」ことが一つのサインになります。
息切れは、最初は階段や坂道で気づくことが多いです。「年のせいかな」「運動不足かな」と思って放置されやすいのですが、徐々に平地歩行、入浴、着替え、会話でも息切れするようになることがあります。
診察では、背中から聴診したときに、パリパリ、バリバリ、ベルクロをはがすような細かい音が聞こえることがあります。これはfine crackles、捻髪音、ベルクロラ音などと呼ばれます。また、慢性の低酸素状態が続くと、指先が太鼓のばちのように丸くなる「ばち指」がみられることもあります。
ただし、症状だけで診断することはできません。心不全、COPD、気管支喘息、肺炎、肺がん、貧血、廃用、肥満、サルコペニア、不安など、息切れを起こす原因は多数あります。だからこそ、問診、画像、呼吸機能、血液検査、必要に応じて気管支鏡や病理検査を組み合わせて判断します。
診断で重要なのは「問診」「HRCT」「呼吸機能」「多職種カンファレンス」
間質性肺炎の診断では、まず徹底した問診が重要です。喫煙歴、職業歴、粉じん曝露、鳥の飼育歴、羽毛布団、加湿器、カビ、農作業、金属加工、木材、薬剤、サプリメント、抗がん剤、放射線治療歴、膠原病症状、家族歴などを確認します。
次に重要なのが高分解能CT、HRCTです。通常の胸部レントゲンではわかりにくい初期変化も、HRCTではより詳しく評価できます。網状影、すりガラス影、牽引性気管支拡張、蜂巣肺、分布が下肺野優位か、胸膜直下優位か、気道中心性か、区域性か、左右差があるかなどを見ます。
IPFで典型的なのは、UIPパターンです。UIPでは、肺の下の方、胸膜に近い部分を中心に線維化が目立ち、進行すると蜂巣肺がみられます。蜂巣肺とは、CTで小さな嚢胞が重なり、蜂の巣のように見える所見です。これは単なる影ではなく、肺の構造が壊れて作り替えられたサインです。
呼吸機能検査では、肺活量、努力肺活量、1秒量、拡散能DLCOなどを測定します。間質性肺炎では、肺が硬くなるため、拘束性換気障害、つまり肺活量が低下するパターンが出やすくなります。また、酸素の受け渡し能力を反映するDLCOが低下することも重要です。
さらに6分間歩行試験も非常に大切です。安静時のSpO₂が保たれていても、歩行時に酸素飽和度が下がることがあるからです。日本呼吸器学会は、2024年4月から特発性間質性肺炎の診断基準・重症度分類が改定され、重症度分類がI度でも6分間歩行試験で最低SpO₂が90%未満なら重症度III度として公費助成対象になることを紹介しています。
そして現代の間質性肺炎診療で重要なのが、MDD、Multidisciplinary Discussionです。これは呼吸器内科医、放射線科医、病理医、膠原病内科医、看護師、リハビリ職などが情報を持ち寄り、総合的に診断を考える方法です。間質性肺炎は、画像だけ、病理だけ、血液検査だけで決める病気ではありません。患者さんの生活、曝露、経過、画像、機能、病理を統合して初めて、診断の精度が上がります。
治療は「炎症を抑える」「線維化を抑える」「原因を避ける」「生活を支える」の組み合わせ
間質性肺炎の治療は、病型によって大きく変わります。
膠原病に伴う間質性肺疾患、器質化肺炎、非特異性間質性肺炎など、炎症の要素が強い場合には、ステロイドや免疫抑制薬が使われることがあります。過敏性肺炎では、原因抗原を避けることが極めて重要です。鳥、カビ、職場環境、住環境など、原因が見つかれば、それを取り除くことが治療の第一歩になります。
一方、IPFでは、ステロイドや免疫抑制薬を安易に使う考え方は大きく変わりました。PANTHER-IPF試験では、IPF患者にプレドニゾン、アザチオプリン、N-アセチルシステインを併用した群で死亡や入院リスクが増えたため、この治療戦略に大きな警鐘が鳴らされました。
IPFでは、現在、抗線維化薬が重要な位置を占めています。代表的なのがピルフェニドンとニンテダニブです。これらは肺を元通りにする薬ではありませんが、肺機能低下の速度を遅らせることが期待されます。Mayo Clinicも、すでに起こった肺の瘢痕化は元に戻らず、治療の目的は症状改善、進行抑制、生活の質の維持であると説明しています。
さらに、IPF以外の間質性肺疾患でも、線維化が進行するタイプがあります。これを進行性肺線維症、PPFと呼びます。2022年のATS/ERS/JRS/ALAT国際ガイドラインでは、IPF以外の間質性肺疾患で、過去1年以内に呼吸症状の悪化、画像上の進行、呼吸機能の悪化のうち少なくとも2つがある場合、PPFとして捉える考え方が示されました。
PPFという概念の重要性は、「病名」だけでなく「進行する振る舞い」に注目する点にあります。たとえば、原因が膠原病でも、過敏性肺炎でも、分類不能でも、線維化が進み続けるなら、抗線維化治療を考える余地があります。実際、INBUILD試験では、進行性線維化を伴う間質性肺疾患において、ニンテダニブが努力肺活量の低下を抑制したことが示されました。
2026年の大きなニュース――ネランドミラストという新しい選択肢
2026年時点で最も注目すべき新しい治療の一つが、ネランドミラスト、商品名ジャスケイドです。
ネランドミラストは、PDE4Bを優先的に阻害する経口薬です。抗線維化作用と免疫調整作用を併せ持つ薬剤として開発されました。FIBRONEER-IPF試験では、IPF患者において、ネランドミラスト投与群はプラセボ群よりも52週時点の努力肺活量低下が小さかったと報告されました。
また、FIBRONEER-ILD試験では、IPF以外の進行性肺線維症、PPFの患者においても、ネランドミラストがプラセボより努力肺活量低下を抑えたことが示されました。
米国FDAは2025年10月にネランドミラストをIPF治療薬として承認し、2025年12月にはPPF治療薬としても承認しました。 そして日本でも、2026年5月18日にネランドミラストがIPFおよびPPFの治療薬として製造販売承認を取得したと発表されています。
これは非常に大きな流れです。長く、IPF治療はピルフェニドンとニンテダニブが中心でした。そこに新しい機序の薬が加わったことで、治療選択肢が広がりました。ただし、ここで大切なのは、「新薬が出たから治る」という単純な話ではないということです。抗線維化治療の目的は、基本的には進行を遅らせることです。どの薬を使うか、既存薬とどう使い分けるか、副作用をどう管理するか、腎機能・肝機能・体重・食欲・下痢・併用薬をどう考えるかは、専門医と慎重に相談する必要があります。
新薬の登場は希望ですが、同時に「早く診断し、進行を見逃さず、適切なタイミングで治療を考える」ことの重要性をさらに高めたとも言えます。
急性増悪――間質性肺炎で最も警戒すべき局面
間質性肺炎では、慢性的に少しずつ進行するだけでなく、ある時点で急に悪化することがあります。これを急性増悪と呼びます。
急性増悪では、数日から数週間の単位で息切れが急激に悪化し、酸素化が低下します。感染、手術、薬剤、誤嚥、心不全などが関与することもありますが、明確なきっかけがわからない場合もあります。特にIPFの急性増悪は重篤で、生命予後に大きく影響します。
だからこそ、間質性肺炎の患者さんでは、感染予防が重要です。風邪のような症状、発熱、咳の変化、SpO₂の低下、急な息切れ悪化があれば、早めに医療機関へ相談する必要があります。難病情報センターも、感染予防としてマスク、手洗い、うがい、インフルエンザ・肺炎球菌・新型コロナなどの予防接種の重要性を挙げています。
呼吸リハビリは「肺を治す」より「生活を取り戻す」ためにある
間質性肺炎のリハビリを考えるとき、「肺が硬くなっているのに運動してよいのか?」という疑問が出ます。結論から言えば、病状と酸素化を評価したうえで行う呼吸リハビリは、重要な支援になります。
Cochraneレビューでは、間質性肺疾患に対する呼吸リハビリは、運動耐容能、息切れ、生活の質を改善する可能性があり、IPFを含む患者でも安全に実施できるとまとめられています。6分間歩行距離は、介入直後に平均約40m改善したと報告されています。
ただし、間質性肺炎のリハビリにはCOPDとは異なる注意点があります。間質性肺炎では、運動時にSpO₂が急に下がることがあります。そのため、運動負荷を上げればよいという単純な話ではありません。SpO₂、呼吸困難感、心拍数、疲労感、回復時間を見ながら、安全な範囲で活動量を調整します。
リハビリの目標は、肺の線維化を直接消すことではありません。息切れがあっても、生活の中でできることを増やすこと。活動を怖がりすぎて廃用になるのを防ぐこと。呼吸法やペース配分を学ぶこと。階段、入浴、買い物、外出、家事などを現実的に続けること。必要に応じて酸素療法や福祉用具、環境調整を組み合わせることです。
たとえば、息切れしやすい人には、「一気に動く」のではなく「動作を分ける」ことが有効です。着替えなら、上衣と下衣の間に休憩を入れる。入浴なら、浴室内の椅子を使う。買い物なら、重い荷物を持たず、カートや配送を使う。階段なら、呼吸を止めずに一段ずつ上がる。これらは小さな工夫ですが、患者さんにとっては生活の自由度を大きく左右します。
在宅酸素療法は敗北ではなく「活動を支える道具」である
間質性肺炎が進行すると、安静時や運動時に酸素が足りなくなることがあります。その場合、在宅酸素療法が検討されます。
酸素を使うことに抵抗を感じる人は少なくありません。「もう重症なのか」「外出しにくくなるのでは」「人目が気になる」と感じることもあります。しかし、酸素療法は単に病気の重さを示すものではなく、生活を支える道具でもあります。
Mayo Clinicは、酸素療法は肺の損傷そのものを止めるわけではないものの、呼吸や運動をしやすくし、低酸素による合併症を減らし、睡眠や生活感を改善する可能性があると説明しています。
リハビリの視点から見ると、酸素療法は「活動をあきらめるためのもの」ではなく、「活動を続けるためのもの」です。適切な酸素流量、携帯酸素の使い方、チューブの取り回し、転倒予防、外出練習、災害時の備えまで含めて支援することが大切です。
日常生活で大切なこと――禁煙、感染予防、栄養、早期相談
間質性肺炎の生活管理で重要なのは、まず禁煙です。IPFは50歳以上の男性に多く、喫煙が危険因子と考えられています。喫煙歴がある人では、肺気腫と肺線維症が合併する気腫合併肺線維症、CPFEも問題になります。
次に感染予防です。感染は急性増悪のきっかけになり得ます。手洗い、マスク、ワクチン、睡眠、過労予防、人混みでの注意は、単なる一般論ではなく、間質性肺炎の人にとって重要な自己防衛になります。
栄養も重要です。息切れが強くなると食事量が減り、体重が落ち、筋肉量が減ります。筋肉が減ると、さらに息切れしやすくなります。つまり、肺の病気が「食べられない」「動けない」「筋肉が落ちる」「さらに息切れする」という悪循環を作ります。体重が増えすぎると呼吸負荷が増えますが、逆に痩せすぎも問題です。適正体重と筋肉量を保つことは、治療の土台です。
また、症状の変化を記録することも役立ちます。息切れの程度、歩ける距離、咳の変化、SpO₂、体重、食欲、発熱、薬の副作用などを記録すると、外来で医師に伝えやすくなります。特に「昨日までできたことが急にできない」「いつもの酸素量で苦しい」「SpO₂が普段より下がる」という変化は要注意です。
これからの間質性肺炎研究――分類から個別化医療へ
間質性肺炎の研究は、今まさに大きく変わっています。
第一の変化は、病名中心から「進行する表現型」への転換です。PPFという概念は、まさにその象徴です。原因が違っても、線維化が進む患者群を早く見つけ、進行抑制を考える。この視点は、臨床を大きく変えています。
第二の変化は、画像診断の進化です。HRCTはすでに診断の中心ですが、今後はAIによる線維化の定量化、すりガラス影や牽引性気管支拡張の自動評価、将来の肺機能低下予測などが進む可能性があります。NHLBIも、CT画像を用いた新しい評価法により、軽度の肺瘢痕が将来ILDへ進展するかを予測する研究を支援していると紹介しています。
第三の変化は、薬物治療の多様化です。ピルフェニドン、ニンテダニブに加え、ネランドミラストが登場しました。今後は、抗線維化、免疫調整、上皮保護、老化細胞、マイクロバイオーム、遺伝子背景、バイオマーカーなど、複数の方向から治療が探られていくでしょう。
第四の変化は、患者中心のアウトカムです。努力肺活量の低下を抑えることは重要ですが、患者さんにとっては「階段を上れるか」「外出できるか」「夜眠れるか」「咳がつらくないか」「家族と旅行に行けるか」も同じくらい重要です。今後の医療では、肺機能だけでなく、生活の質、活動、参加、心理的支援まで含めた評価がさらに重要になります。
まとめ――間質性肺炎は「肺が硬くなる病気」
間質性肺炎は、肺胞の壁である間質に炎症や線維化が起こり、肺が硬くなり、酸素を取り込みにくくなる病気です。普通の肺炎とは異なり、抗菌薬で簡単に治る病気ではありません。原因は、膠原病、薬剤、環境曝露、過敏性肺炎、喫煙、遺伝的背景など多岐にわたり、原因が特定できない場合は特発性間質性肺炎と呼ばれます。
特にIPFは進行性で難治性ですが、抗線維化薬の登場によって、治療の目標は「何もできない」から「進行を遅らせる」へ変わりました。さらに2026年には、日本でもネランドミラストがIPF・PPFの治療薬として承認され、治療選択肢は広がっています。
一方で、薬だけが治療ではありません。早期診断、原因検索、禁煙、感染予防、呼吸リハビリ、在宅酸素療法、栄養管理、心理的支援、家族支援、生活環境調整がすべて重要です。
間質性肺炎は、肺を硬くする病気です。しかし、医療の進歩、研究の進展、リハビリ、生活支援によって、患者さんの生活そのものまで硬く閉ざされる必要はありません。
これからの間質性肺炎診療で大切なのは、「肺の画像を見ること」だけではありません。その人がどんな生活をしてきたのか、何に曝露されてきたのか、どんな活動を続けたいのか、どんな不安を抱えているのかまで見ることです。
肺は、ただ酸素を取り込む臓器ではありません。歩く、話す、笑う、食べる、働く、眠る、家族と過ごす――そのすべてを支える臓器です。だからこそ、間質性肺炎を理解することは、呼吸を理解することであり、生活を理解することでもあるのです。


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