脳はどうやって身体を動かしているのか?

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―CPGと「両側支配/片側支配」をやさしく整理する―**

私たちは日常の中で、歩く、噛む、飲み込む、視線を動かすといった動作を何の気なしに行っています。しかし、これらの動作の背後には、脳と脊髄の精緻なネットワークが働いており、「どの動作をどの神経が支配しているか」というルールが存在します。

この記事では、リハビリや臨床でも必ず役立つ CPG(中枢パターンジェネレーター)
そして運動神経の 片側支配・両側支配 の違いを整理しながら、
咀嚼・嚥下・顔面筋・眼球運動などの具体例を分かりやすく解説していきます。


1. 中枢パターンジェネレーター(CPG)とは?

CPG(Central Pattern Generator)は、脊髄や脳幹に存在するリズム生成の神経回路です。
特徴は次の通りです。

  • 外部からの指令がなくてもリズム運動を自律生成できる
  • 歩行、走行、呼吸、咀嚼、嚥下、ハイハイ、自転車こぎなどに関与
  • 大脳の随意運動が障害されても、基本的なリズムは残る場合がある

特に咀嚼や嚥下は、脳幹にある CPG(延髄の嚥下中枢・三叉神経運動核など)が関わり、
「かむリズム」「飲み込む連続運動」を反射的に支える仕組み を持っています。


2. 大脳の損傷があっても咀嚼・嚥下が残る理由

脳卒中で 大脳皮質の顔面運動野が損傷しても、ある程度咀嚼・嚥下機能が残る例 は多く報告されています。

これは、

  • 咀嚼・嚥下は 大脳皮質より下のレベル(脳幹)にある CPG が強く関与している
  • 咽頭・喉頭・舌筋・咀嚼筋は 両側支配 が強いため、片側の脳損傷でも完全に失われにくい

という二つの理由によります。

臨床で「皮質損傷のわりに嚥下が保たれている」ケースがあるのは、このためです。


3. 片側支配と両側支配とは?

運動神経の支配には大きく二種類あります。

● 片側支配(対側支配)

  • 大脳の右半球 → 左の身体
  • 左半球 → 右の身体

細かな随意運動を必要とする部位ほど片側支配が強い傾向があります。

● 両側支配

左右両方の大脳から信号が入り、同じ筋へ影響する方式です。
「左右同時の動き」「バランスが重要な動き」を担う筋に多い。


4. 具体例で理解する:どの筋が片側支配で、どの筋が両側支配なのか?

(1)表情筋

上部(額・眼輪筋) → 両側支配が強い

・眉を上げる
・目をぎゅっと閉じる
など左右対称性が重要な部位。

下部(口周り) → 片側支配が強い

・口角を上げる
・唇をすぼめる
・発音の微細調整

→ この部位は 発話や表情の細かいコントロールが必要なため、半球ごとに細かく支配する構造になっています。

(2)舌筋(舌下神経支配) → 両側支配

舌は嚥下・構音で左右の協調運動が必要なため、両側から指令が来ます。
そのため、片側大脳損傷でも 完全に舌が動かなくなることは少ない

(3)咽頭・喉頭(嚥下・発声) → 両側支配

  • 咽頭収縮筋
  • 甲状披裂筋
  • 声帯を動かす筋

これらは呼吸や嚥下を破綻させないため 両側支配が非常に強いのが特徴。

(4)咀嚼筋 → 両側支配

咬筋・側頭筋・内外翼突筋などは左右協調が重要なため両側支配。

(5)体幹筋 → 両側支配が強い

姿勢保持・バランス調整のため両側性が強く、
脳卒中でも体幹は比較的保たれることが多い。

(6)四肢筋(上肢・下肢) → 片側支配(対側支配)

手足の細やかな動きには片側支配が適しているため、
「右脳の損傷 → 左片麻痺」という典型的パターンが生じます。

ただし、近位部(肩・股関節周囲)には赤核脊髄路など両側性の影響もわずかにあるため、
遠位ほど重度の麻痺になりやすいという特徴があります。


5. 意識的な眼球運動はどこでコントロールされる?

眼球運動は脳幹の神経核(動眼・滑車・外転神経核)が最終的に指令を出しますが、
「どこを見るか」を決めるのは大脳皮質です。

● 前頭眼野(FEF:Frontal Eye Field)

意識的に視線を動かすときの中枢。
「右を見る」「上を見る」といった指令を作る。

● 頭頂葉:視空間の位置情報処理

● 後頭葉:視覚情報処理

● これらが脳幹の眼球運動中枢へ指令を送る

そして眼球運動は 両側協調性が極めて重要であるため、
支配はほぼ 両側性 と考えてよい動作です。


6. 「なぜ両側支配と片側支配に分かれているのか?」

機能的に見るととても合理的です。

● 両側支配が適した動き

  • バランス・姿勢保持
  • 嚥下・発声・呼吸
  • 両眼の協調
  • 咀嚼

これらは左右が同時に働くことが前提なので、両側支配が強くなる。

● 片側支配が適した動き

  • 手足の精密な運動
  • 表情の微妙なコントロール(特に下顔面)

左右を独立させるほうが機能的なので、片側支配が強い。

こうした支配方式の違いを理解しておくと、
脳卒中の症状理解・麻痺評価・リハビリ計画が格段にわかりやすくなります。


まとめ

  • CPGは脳幹や脊髄にあるリズム生成装置で、咀嚼・嚥下・歩行などを支える
  • 咀嚼・嚥下は両側支配+CPGの存在により、片側大脳損傷でもある程度機能が残りやすい
  • 表情筋は「上部=両側」「下部=片側」という特徴的な支配方式
  • 眼球運動は大脳の前頭眼野が意識的コントロール、支配は両側性
  • 手足は片側支配が基本で、脳卒中で典型的に対側麻痺となる
  • 体幹は両側支配が強く、比較的保たれやすい

脳と身体の関係はとても合理的な構造をしており、
臨床で患者さんの症状を理解するうえで非常に役立ちます。

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