大脳基底核の4つのループとは?運動・眼球運動・認知・意欲をつなぐ回路を解説

大脳基底核の4つのループ。運動・眼球運動・前頭前野・辺縁系をテーマに、医療者と相談者、動作・視線・手順・目標を象徴するイラストを配置。 リハビリ・運動療法

「手足は動くのに、身支度を始められない」「目の前に必要な物があるのに、次に何をするか決められない」。こうした場面を見ると、私たちは運動、注意、記憶、意欲を別々に考えがちです。しかし、実際の生活では、目的を持ち、必要な情報に目を向け、行動の順番を選び、身体を動かす働きがつながっています。大脳基底核は、このつながりを考えるうえで重要な脳の仕組みの一つです。

大脳基底核というと、パーキンソン病や身体の動きを思い浮かべる方が多いかもしれません。その理解を広げる手がかりになるのが、大脳皮質と大脳基底核、視床を結ぶ「ループ」という見方です。本記事では、運動ループ、眼球運動ループ、前頭前野ループ、辺縁系ループの4つを軸に、機能解剖から日常生活との関係まで整理します。回路のモデルから理解できることと、モデルだけでは判断できないことを分けながら見ていきましょう。

「4つのループ」は、何を4つに分けているのか

ここでいうループとは、大脳皮質から出た情報が大脳基底核に入り、視床などを介して再び大脳皮質の活動に影響する回路のまとまりです。情報が戻る形に着目して「輪」を意味するループと呼びますが、同じ信号がただ一周して元に戻るという意味ではありません。どの皮質領域と結びつくかによって、身体運動に関わる回路、視線の移動に関わる回路、認知に関わる回路、動機づけに関わる回路を区別できます。[1, 2]

ただし、大脳基底核のループには、世界共通で唯一の「4分類」があるわけではありません。古典的な説明では、運動、眼球運動、背外側前頭前野、外側眼窩前頭皮質、前帯状皮質という5つの回路がよく取り上げられます。さらに細かく区分する研究もあり、どの領域をまとめるかによって数え方が変わります。したがって、4つという数字は、解剖学的に4本だけの配線が存在するという意味ではなく、機能の違いを理解するための整理です。[3]

本記事では、身体運動、眼球運動、認知、動機づけ・情動という大きな働きに沿って4つにまとめます。前頭前野ループでは背外側前頭前野を中心とした認知的な働きを扱い、辺縁系ループでは前帯状皮質や腹内側前頭前野、眼窩前頭皮質などに関わる価値判断や動機づけを扱います。とくに眼窩前頭皮質の位置づけは分類によって異なり、認知と情動の境界も明確な壁ではありません。この前提があると、別の本で「5回路」と出会っても、内容が矛盾していると早合点せずに読めます。[1, 3, 4]

共通する基本構造――大脳皮質と深部の核をつなぐ

4つのループを理解する前に、共通する登場人物を確認しましょう。大脳基底核は一つの丸い器官の名前ではなく、脳の深部にある複数の神経核を機能的にまとめた呼び方です。主要な構成要素には、線条体、淡蒼球、黒質、視床下核があります。線条体のうち、尾状核と被殻は背側線条体として扱われ、腹側には側坐核などを含む腹側線条体があります。淡蒼球は内節と外節、黒質は網様部と緻密部で働きが異なります。[2, 4]

大まかな情報の流れは、大脳皮質→線条体→大脳基底核の出力部→視床→大脳皮質です。背側の回路では、淡蒼球内節と黒質網様部が主要な出力部となり、腹側の回路では腹側淡蒼球が重要になります。一方、黒質緻密部は主にドーパミンによる調節に関わるため、「黒質」という言葉だけで出力部とドーパミンの供給源を同一視しないことが大切です。また、大脳基底核からは脳幹へ向かう出力もあり、すべてが視床を経由して閉じるわけではありません。[2, 4]

こうした回路は、皮質から筋肉に向かう運動指令そのものと同じではありません。大脳基底核は、大脳皮質や脳幹の活動を調節することで、行動の実行に影響します。そのため、大脳基底核の機能を「筋力を出す場所」と捉えるだけでは、動きの小ささ、行動の選び方、始めにくさなどを十分に説明できません。どの情報が入ってきて、どの領域に働きかけるのかを追うことが、4つのループを理解する出発点になります。[2, 5]

大脳基底核の4つのループ
運動ループ

運動野・運動前野・補足運動野など → 主に被殻 → 淡蒼球内節・黒質網様部 → 視床(主にVA・VL) → 皮質

動きの大きさ・速さ・実行の調整
眼球運動ループ

前頭眼野・補足眼野など → 主に尾状核 → 黒質網様部など → 視床(主にVA・MD) → 皮質

視線を向ける対象の選択。黒質網様部 → 上丘への出力も重要
前頭前野ループ(認知)

背外側前頭前野など → 尾状核の前方部など → 淡蒼球内節・黒質網様部 → 視床(主にMD・VA) → 皮質

目標・ルールに沿った行動の調整
辺縁系ループ(動機づけ・情動)

前帯状皮質・腹内側前頭前野・眼窩前頭皮質など → 腹側線条体(側坐核など) → 腹側淡蒼球など → 視床(主にMD) → 皮質

価値を行動につなぐ

VA:視床前腹側核、VL:腹外側核、MD:背内側核。投射を省略した模式図で、4つの回路には重なりや相互作用があります。

図1.4つのループの代表的な結びつきを示した模式図です。すべての投射や領域内の細かな区分を網羅した解剖図ではありません。眼球運動では黒質網様部から上丘への出力も重要で、4つのループの間にも相互作用があります。文献1〜4、6をもとに作成しました。

ループ主に結びつく皮質領域主な線条体領域働きを理解するための問い
運動運動野・運動前野・補足運動野など被殻どの動きを、どの程度の大きさや速さで行うか
眼球運動前頭眼野・補足眼野など尾状核次にどこへ視線を向けるか
前頭前野(認知)背外側前頭前野など尾状核の前方部など今の目標やルールに合わせて、何を選び直すか
辺縁系(動機づけ・情動)前帯状皮質・腹内側前頭前野・眼窩前頭皮質など腹側線条体・側坐核などその行動にはどのような価値があり、取り組むか

表の問いは理解のための要約です。一つの問いを一つの部位だけが処理するという対応表ではありません。

運動ループ――動きの実行を、状況に合わせて調節する

運動ループは、一次運動野、運動前野、補足運動野などからの入力を受け、主として被殻、淡蒼球内節や黒質網様部、視床の運動関連領域を経て、皮質の運動領域につながります。体の部位に対応する構成もありますが、単純に一か所が一つの筋肉だけを担当する配線ではありません。運動に必要な情報を、皮質と大脳基底核の間で処理する仕組みと考えると理解しやすくなります。[1, 3]

たとえば、テーブルのコップを取るときには、腕を動かせるだけでは十分ではありません。コップの位置や中身、急いでいるかどうかなどに合わせ、動きの大きさや速さを調整する必要があります。大脳基底核の運動機能については、行動の選択、動きの勢いの調整、学習による動作の改善など、複数の説明が検討されています。「動き始めるスイッチ」という比喩は入口として分かりやすいものの、すべての研究結果を説明できるわけではありません。[5]

ここでいう動きの勢いは、単なる最大筋力とは異なります。同じ身体能力があっても、課題にかける時間や努力、予想される成果によって、実際に選ばれる動き方は変わります。大脳基底核をこうした調整に関わる回路として見ると、「検査では動かせるが、生活では動作が小さく遅くなる」という違いに目を向けやすくなります。ただし、その違いだけで病変部位や原因を特定することはできず、感覚、姿勢、痛み、疲労なども合わせて考える必要があります。[5]

パーキンソン病の動作緩慢を理解するときにも、運動ループは重要です。しかし、同疾患を運動ループだけの問題として捉えると、認知や気分、睡眠などの問題を見落としかねません。また、動きが遅いことを「努力が足りない」と評価すると、神経学的な変化を本人の態度に置き換えてしまいます。運動ループという視点は、意志の強さを判定するためではなく、動作のどの性質が変わっているかを具体的に観察するために使うものです。

眼球運動ループ――視線をどこへ移すかを支える

眼球運動ループは、前頭眼野などの皮質領域と、尾状核、黒質網様部などを結ぶ回路です。視床を介して皮質に戻る経路に加え、黒質網様部から中脳の上丘へ向かう出力が重要になります。上丘は視線を向ける反応に関わる構造であり、この出力を含めて考えることで、大脳基底核と実際の眼球運動の関係が見えてきます。[3, 6]

私たちは文章を読むときも、棚から物を探すときも、視線を滑らかに動かし続けているわけではありません。視線を素早く別の位置へ移す運動をサッカードと呼びます。どこを見るかを決めるには、刺激が目立つかどうかだけでなく、現在の目的や、過去にその対象が持っていた価値も関係します。大脳基底核の研究では、報酬に関する情報が、視線を向ける対象の選択に結びつく仕組みが検討されています。[6]

たとえば、朝食の準備で冷蔵庫の中を見る場面を想像してください。「牛乳を取りたい」という目標があると、視線は無関係な容器ばかりに向かうのではなく、必要な物を探す方向へ調整されます。このとき、目標を保つ認知的な働きと、視線を動かす働きは切り離せません。眼球運動ループという区分は、視線の移動を一つの重要な側面として取り出すためのもので、視覚的な探索をその回路だけで説明するものではないのです。

臨床では、「見えているか」と「必要な場所に視線を向けられるか」を分けて観察するきっかけになります。ただし、物を見落とす原因には、視力や視野の問題、半側空間無視、注意の変動、理解の難しさなどもあります。見落としを認めただけで眼球運動ループの障害と決めつけたり、眼を動かす練習がその回路を選択的に回復させると説明したりすることはできません。回路の知識から観察の問いを増やし、実際の評価で確かめることが大切です。

前頭前野ループ――目標とルールに合わせて行動を組み立てる

前頭前野ループは、背外側前頭前野を中心とする皮質領域と、尾状核、淡蒼球内節や黒質網様部、視床を結ぶ回路として説明されます。認知ループや連合ループという名称で扱われることもあります。目標に沿って行動を組み立てる、必要な情報を一時的に保つ、状況に合わせて方針を更新するといった働きに関係しますが、知能や記憶のすべてがこの回路に収まるわけではありません。[3, 4]

たとえば、外出前に「財布を入れる、鍵を持つ、火元を確認する」という順序を考える場面では、目的を保ちながら、終えたことと残っていることを区別する必要があります。途中で電話が鳴れば、その後にどこから再開するかも判断しなければなりません。このような行動は、単独の動作ができるかどうかだけでは評価しにくいものです。身体が動くことと、生活全体を見通して動作をつなげられることの間に、認知的な調整があると分かります。

大脳基底核と前頭前野の関係は、学習の研究でも検討されています。サルが新しい対応関係を学ぶ課題では、線条体と前頭前野の活動変化が同じ時間経過を示すわけではなく、線条体で速い変化が見られ、前頭前野の変化は行動の改善により近い経過を示しました。これは、両者を同じ仕事をする二重の装置と見るより、学習の異なる側面を担いながら関わると考える手がかりです。ただし、この動物実験から、特定の認知課題が人の前頭前野ループを直接修復すると結論づけることはできません。[7]

実生活で「手順が止まる」ときには、その人が目標を理解しているか、途中の情報を保持できるか、別の行動へ切り替えられるかを分けて確認します。説明を短くする、工程を見える形にする、不要な選択肢を減らすといった環境調整は、課題のどこで負担が増えるかを検討する方法になります。これらは回路図から自動的に決まる処方ではなく、実際の行動がどう変わるかを確かめながら選ぶ支援です。回路モデルと生活上の工夫の間には、個別の評価という段階が必要です。

辺縁系ループ――価値や動機づけを行動につなぐ

辺縁系ループでは、前帯状皮質、腹内側前頭前野、眼窩前頭皮質などと、腹側線条体、腹側淡蒼球、視床とのつながりが重要になります。腹側線条体には側坐核が含まれ、扁桃体や海馬などからの入力も受けます。快・不快だけでなく、経験や文脈を踏まえ、その行動にどのような意味があるかを扱う広いネットワークの一部として捉える必要があります。[4, 8]

たとえば、「散歩に行ける身体能力がある」ことと、「散歩に行こうと自分から動き出す」ことは同じではありません。散歩を楽しみに感じるか、外に出る負担が大きすぎないか、目的を具体的に思い描けるかによって、行動の起こりやすさは変わります。辺縁系ループは、こうした価値や動機づけと行動のつながりを理解する手がかりになります。ただし、やる気を一か所で作って全身へ送るような単純な仕組みではありません。

自発的で目的のある行動が減少する状態を理解する概念に、アパシーがあります。LevyとDuboisは、アパシーを情動・感情の処理、認知的な処理、自分で行動を起こす過程などに分けて検討しています。見かけ上はどれも「動こうとしない」と映っても、価値を感じにくいのか、計画を立てられないのか、自発的に開始することが難しいのかでは、理解の仕方が異なります。アパシーを辺縁系ループ一つの問題に押し込めず、前頭前野と大脳基底核の複数の回路から考えることが重要です。[8]

この見方は、本人への声のかけ方にも影響します。「やる気を出してください」という言葉だけでは、何が難しいのかが分かりません。本人にとって意味のある活動か、最初の一歩が分かるか、痛みや疲労、抑うつなどが重なっていないかを確かめる方が、支援の具体化につながります。行動しない理由を人格や怠惰に帰す前に、行動が成立する条件を丁寧に見ることが、回路の知識を生活支援に生かす姿勢です。

4つのループと、直接路・間接路・ハイパー直接路の違い

ここまでの4分類は、「どのような情報や機能に関わる回路か」という分け方です。それに対して、直接路、間接路、ハイパー直接路は、主に大脳基底核の内部をどのように情報が通るかに注目した分け方です。4つのループと3つの経路は、別の軸で整理した概念であり、運動ループが直接路、認知ループが間接路、という対応ではありません。機能の区分と回路内の経路を混同しないことが、理解の大きなポイントになります。[1, 2, 9]

古典的なモデルでは、淡蒼球内節や黒質網様部の出力は、視床などの標的に対して抑制的に働きます。直接路で線条体がこの出力部を抑えると、標的への抑制が弱まります。このように、抑えているものをさらに抑えることで、標的が活動しやすくなる関係を脱抑制と呼びます。「直接路は促進的」と説明される場合も、途中のすべての結合が興奮性という意味ではありません。[2]

間接路は淡蒼球外節や視床下核を経由し、古典的なモデルでは出力部からの抑制を強める方向に働きます。ハイパー直接路は大脳皮質から視床下核へ入り、線条体を経由せず出力部に影響します。この速い経路が、動作の準備や選択時にどのような役割を果たすかが研究されてきました。図2はこれらの代表的な経路を整理したもので、実際にはさらに多くの投射や細胞種が関与します。[2, 9]

回路内を通る3つの経路

+:主な興奮性結合、−:主な抑制性結合

直接路

大脳皮質 +→ 線条体 −→ 出力部(GPi・SNr) −→ 視床

出力部への抑制が、標的への抑制を弱める「脱抑制」につながる。
間接路

大脳皮質 +→ 線条体 −→ 淡蒼球外節(GPe) −→ 視床下核(STN) +→ 出力部(GPi・SNr) −→ 視床

古典的なモデルでは、出力部からの抑制を強める方向に働く。
ハイパー直接路

大脳皮質 +→ 視床下核(STN) +→ 出力部(GPi・SNr) −→ 視床

線条体を経由せず、皮質から視床下核を介して出力部へ伝わる。

視床から皮質への主要な結合は興奮性(+)。GPi:淡蒼球内節、SNr:黒質網様部。主に背側の古典的モデルであり、単純な「進め/止まれ」の二択では実際の活動を説明しきれません。

図2.主に背側線条体を中心とした古典的な経路モデル。+は主な興奮性結合、−は主な抑制性結合を表します。腹側の回路まで、同じ細胞分類や経路構成がそのまま当てはまると考えないでください。文献2、9、10をもとに作成しました。

ただし、直接路を常に「進め」、間接路を常に「止まれ」とする二択では、現在の知見を十分に説明できません。マウスの行動開始時には、直接路と間接路の線条体ニューロンがともに活動することが報告されています。二つの経路を、片方が働くともう片方は必ず休むスイッチとして捉えるのは単純化しすぎです。古典的な図は方向性を学ぶ入口として使い、実際の行動は時間的・空間的な活動の組み合わせによって生じると考える必要があります。[10]

ループ同士は分断されていない――ドーパミンと学習の視点

4つのループを図にすると、それぞれが独立して並んでいるように見えます。しかし、皮質から線条体への投射には重なりや収束があり、異なる情報が関わり合う構造が示されています。線条体と中脳のドーパミン系を介して、腹側の領域から認知・運動に関わる領域へ影響が広がる構成も提案されています。平行した回路という見方と、情報が相互に関わるという見方の両方が必要です。[4]

朝食を作る場面なら、食べたいという価値や目的があり、必要な物へ視線を向け、手順を保ち、腕や指を動かします。この説明で4つの側面を区別できても、実際の脳が一つずつ順番に回路を起動しているとは限りません。行動の途中で目的や環境が変われば、複数の処理が並行して更新されます。4ループの図は、生活を四分割するためではなく、ひとつの行為に複数の働きが重なっていることを理解するために使えます。

ドーパミンも、この学習と行動調整に関わります。代表的な研究では、報酬が予測とどのくらい違ったかに対応するドーパミンニューロンの反応が示され、報酬予測誤差という考え方につながりました。予想したより良い結果だったか、期待した結果が得られなかったかという情報は、次の行動選択を学ぶうえで意味を持ちます。ただし、ドーパミンの働きをすべてこの一つの計算に還元したり、「多ければ幸せ」「少なければやる気がない」と説明したりすることはできません。[11]

リハビリテーションで成功体験や活動の意味を大切にすることと、特定の練習によってドーパミンがどれだけ変化したかを証明することも別です。「この課題で側坐核が活性化したはず」「この声かけで回路が回復した」といった説明は、直接測定していなければ推測にとどまります。実践では、開始までの時間、必要な手がかりの数、取り組む回数、生活場面への広がりなど、実際に確認できる変化を評価する方が確実です。

生活場面で使うときは、「どのループが壊れたか」より問いを増やす

ここで、架空の例として「お茶をいれようとするが、途中で止まる人」を考えます。手を動かす速度だけを見れば運動の問題に思えるかもしれませんが、必要な道具を探せない、手順を忘れる、何のために始めたかが保てない、といった可能性もあります。逆に、これらが混在している場合もあります。一つの行動を複数の観点から見直すことが、4ループの整理を生かす使い方です。

観察する側面具体的に確かめること支援を検討する入口
動作の実行届くか、動きが小さくなるか、速度や姿勢はどうか道具の位置や重さ、姿勢、動作の負担を確認する
視線と探索湯飲みや急須を探せるか、視線が必要な場所へ向くか物の配置、見やすさ、周囲の情報量を確認する
目標と手順目的を保てるか、次の工程が分かるか、中断後に再開できるか工程を示す、説明を短くするなど、必要な手がかりを試す
価値と開始本人が望む活動か、自分で始めるか、誘いかけで変わるか好みや目的、疲労、痛み、心理状態を確認する

この表は病変を推定する診断表ではありません。たとえば、物を探せないという一つの行動から、尾状核や眼球運動ループの障害を特定することはできません。また、急須に手が伸びない理由が、運動障害、感覚障害、失行、恐怖、理解の問題のどれなのかは、回路図だけでは分かりません。病歴、神経学的所見、認知機能の評価、実際の生活場面を組み合わせて検討する必要があります。

支援を試す際には、一度に多くの条件を変えると、何が役立ったのか分かりにくくなります。たとえば、道具の位置を変えたとき、工程を一つ示したとき、本人が好む活動に変えたときで、行動がどう違うかを見ます。これは特定のループを選択的に刺激する実験ではなく、その人が行動しやすくなる条件を探る作業です。4ループという知識を背景に置きながら、目の前の変化を優先して判断することが重要です。

回路の説明と、リハビリの効果を示す根拠は分ける

回路モデルが分かると、「この経路に働きかければ、この練習が有効なはず」と考えたくなります。しかし、仕組みとして説明しやすいことと、患者さんに効果があると確認されていることは同じではありません。治療や訓練を選ぶときには、対象となる疾患、重症度、評価項目などが合った臨床研究を別に確かめる必要があります。神経解剖は介入の発想を助けますが、それだけで効果を保証するものではありません。

たとえば、米国理学療法士協会のパーキンソン病診療ガイドラインでは、外的な手がかりを用いる介入が、歩行やすくみ足などを改善するために推奨されています。これは、リズムや視覚的な目印などを用いた介入について、臨床研究を踏まえた推奨です。そこから「外的な手がかりが、4つのループのうち特定の一つを修復する」とまでは言えません。また、同じ介入を別の疾患やあらゆる生活課題へそのまま一般化することもできません。[12]

実際の支援では、診断や症状に合った根拠を確認したうえで、その人が安全に使える方法か、手がかりがない場面でも変化が保たれるか、生活の中で使い続けられるかを評価します。回路の知識、臨床研究、本人の生活という三つの情報を行き来することで、説明だけで終わらない支援になります。専門家にとっても、モデルを詳しく語れることと、本人にとって役立つ介入を選べることを分けて考える姿勢が必要です。

動きだけでなく、行動が成立する全体を見る

大脳基底核の4つのループを学ぶ価値は、4つの名称を暗記することだけにありません。身体の動き、視線、目標や手順、価値や動機づけが、ひとつの行動の中でつながっていると理解できることにあります。「できない」「始めない」という結果を見たときに、その手前にある複数の過程へ目を向けられるようになります。

そのうえで、回路図を本人の状態そのものと取り違えないことが大切です。図は観察のための地図であり、診断や介入効果の証明を代わりにしてくれるものではありません。生活の中で何が難しく、どのような条件なら行動が変わるのかを丁寧に確かめることが、神経科学の知識をその人の暮らしへつなぐ一歩になります。

参考文献

  1. Alexander GE, Crutcher MD, DeLong MR. Basal ganglia-thalamocortical circuits: parallel substrates for motor, oculomotor, “prefrontal” and “limbic” functions. Progress in Brain Research. 85:119–146. PubMed / DOI62678-3)
  2. 南部篤.大脳皮質―大脳基底核ループと大脳基底核疾患.生理学研究所公開資料.本文PDF
  3. Bonelli RM, Cummings JL. Frontal-subcortical circuitry and behavior. Dialogues in Clinical Neuroscience. 2007;9(2):141–151. 本文 / DOI
  4. Haber SN. Corticostriatal circuitry. Dialogues in Clinical Neuroscience. 2016;18(1):7–21. 本文 / DOI
  5. Turner RS, Desmurget M. Basal ganglia contributions to motor control: a vigorous tutor. Current Opinion in Neurobiology. 2010. 本文
  6. Hikosaka O, Kim HF, Yasuda M, Yamamoto S. Basal ganglia circuits for reward value-guided behavior. Annual Review of Neuroscience. 2014;37:289–306. 本文 / DOI
  7. Pasupathy A, Miller EK. Different time courses of learning-related activity in the prefrontal cortex and striatum. Nature. 2005. 論文
  8. Levy R, Dubois B. Apathy and the functional anatomy of the prefrontal cortex-basal ganglia circuits. Cerebral Cortex. 2006;16(7):916–928. PubMed / DOI
  9. Nambu A, Tokuno H, Takada M. Functional significance of the cortico-subthalamo-pallidal ‘hyperdirect’ pathway. Neuroscience Research. 2002. PubMed
  10. Cui G, Jun SB, Jin X, et al. Concurrent activation of striatal direct and indirect pathways during action initiation. Nature. 2013;494:238–242. 論文
  11. Schultz W, Dayan P, Montague PR. A neural substrate of prediction and reward. Science. 1997;275:1593–1599. 著者公開ページ / DOI
  12. Osborne JA, et al. Physical Therapist Management of Parkinson Disease: A Clinical Practice Guideline From the American Physical Therapy Association. Physical Therapy. 2022;102(4):pzab302. 本文

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