鉛筆を強く握りすぎる、コップを持つ力が安定しない、ボールを投げるたびに速さが変わる。こうした場面で、「もっと自分の身体に注意を向ければよいのでは」と考えることがあります。ADHDのある子どもの運動を見ていると、不注意や衝動性だけでなく、身体から得られる感覚情報の使い方にも目を向けたくなるでしょう。しかし、実際には何が研究で示されていて、どこからが臨床上の仮説なのでしょうか。
現在の研究からは、ADHDのある人で感覚処理の特徴や運動の困難がみられること、そして両者が注意の働きとも関係することがわかってきています。ただし、「ADHDでは全員の固有感覚が鈍い」「身体の感覚に注意を向けられないことが、不器用さの唯一の原因である」とまではいえません。この記事では、主に子どもを対象とした研究を中心に、感覚を受け取ること、感覚へ注意を向けること、感覚を使って動きを整えることを分けて考えます。
固有感覚と内受容感覚は、何が違うのか
身体の内側から得られる感覚には、複数の種類があります。手足や体幹がどの位置にあり、どのように動いているかを知る働きは、主に「固有感覚」あるいは「固有受容感覚」と呼ばれます。筋や腱、関節周囲、皮膚などからの情報と、運動に伴う中枢側の情報が組み合わさって、位置や動き、力に関する感覚が成り立ちます。目をつぶっていても肘を曲げたことがわかるのは、その身近な例です。[1]
固有感覚には、身体各部の位置を知る位置覚や、動きの方向・変化を知る運動覚などが含まれます。「深部感覚」という言葉と重なる部分もありますが、臨床用語の範囲は文脈によって異なります。また、力加減は一つの感覚だけで決まるものではありません。コップを持つときには、指に触れる感覚、コップの見た目、腕や指の位置、これまで扱った経験なども利用しています。[1, 2]
一方、心拍や呼吸、空腹感、内臓の状態など、身体内部の生理的な状態に関わる感覚は「内受容感覚」と呼ばれます。固有感覚と内受容感覚は、どちらも身体を知ることに関わりますが、同じものではありません。分類の境界については研究上の議論もありますが、この記事では、位置や動きを知る固有感覚と、生理的状態を知る内受容感覚を分けて用います。心拍への気づきの研究結果を、そのまま関節位置の感覚や運動の問題へ置き換えないためです。[1, 9]
| 感覚の視点 | 主にどのような情報か | 運動・生活での例 |
|---|---|---|
| 固有感覚 | 身体各部の位置や動き、力などに関する情報 | 見なくても手足の位置を把握する、持つ力を調整する |
| 触覚 | 皮膚への接触、圧、滑りなど | コップが指から滑りそうなことに気づく |
| 視覚 | 対象や身体の位置、動きなど | ボールの軌道や書いた線の位置を確認する |
| 前庭感覚 | 頭部の動きや重力方向などに関わる情報 | 姿勢や視線を安定させる際に、ほかの感覚と協力する |
| 内受容感覚 | 身体内部の生理的な状態に関わる情報 | 心拍や呼吸、空腹などの状態に気づく |
表1 理解のために主な働きを整理したものです。実際の動作では複数の感覚が組み合わさり、それぞれが独立して働くわけではありません。
「感じる」「注意を向ける」「動きに使う」を分ける
感覚と運動の関係を考えるうえで、まず区別したいのは、感覚信号が届くことと、その信号を課題に役立てられることです。たとえば、手に物が触れたことを検出できても、持ち方を変えるために、その情報を適切なタイミングで利用できるとは限りません。逆に、ある課題での成績が低くても、感覚の受容器や神経の機能が一律に低下しているとは判断できません。課題の理解、記憶、注意、反応の仕方なども成績に影響するからです。
位置を再現する課題を例にすると、最初の位置を感じ取り、覚え、それを目標に身体を動かし、現在の位置と比べるという過程が必要です。再現した角度に誤差があった場合、どの過程に難しさがあったのかは、誤差の大きさだけではわかりません。「位置を感じ取る精度」と「目標を保持すること」「動きを止めるタイミング」が重なって、測定値に現れます。感覚検査であっても、その課題が何を要求しているかを読む必要があります。[1, 2]
注意についても、目の前の情報を選ぶこと、必要な情報に注意を保つこと、別の対象へ切り替えることなど、複数の働きがあります。身体の感覚に意識を向けることは、その一部です。実際の運動では、すべての関節や筋の状態を一つずつ意識しなくても、多くの調整が進んでいます。運動制御に感覚情報が必要なことと、身体の動きを常に意識し続ける必要があることは、分けて考えなければなりません。[1, 2]

図1 感覚と運動の関係を整理した概念図です。特定の脳部位や神経経路を描いたものではなく、ADHDで図のすべての過程が障害されることを意味しません。
ADHDの感覚処理の特徴は、研究で示されている
ADHDの感覚処理を広く捉える研究として、Jurekらの2025年の系統的レビュー・メタ解析があります。30研究、計5,374人をまとめ、ADHD群では対照群よりも、感覚への敏感さ、感覚を避ける傾向、感覚を求める傾向、感覚への気づきにくさなどが強いと報告しました。子どもの研究が23件、成人の研究が7件含まれています。ADHDを不注意・多動・衝動性だけで捉えず、感覚に関する生活上の経験も確認する意義を示す結果です。[3]
ただし、このメタ解析で対象となったのは、感覚処理のパターンを質問紙で評価した研究です。日常生活でどのように反応するかという報告と、実験室で測定する感覚の検出閾値や関節位置の識別精度は、同じ指標ではありません。また、研究間の結果のばらつきも大きく、すべてのADHD児に同じ特徴が当てはまるわけではありません。「感覚の特徴を丁寧にみる必要がある」という結論と、「固有感覚が一律に低下している」という結論は区別します。[3]
この区別は、身近な行動を解釈するときにも役立ちます。たとえば強い刺激を求めるように見える行動があっても、それだけで感覚の閾値が高いと診断することはできません。活動の面白さ、待つことの難しさ、疲労、周囲の刺激など、別の要素も関係する可能性があります。質問紙や保護者・教師の報告を大切にしつつ、実際の課題で何が起きているかを組み合わせて考えることが必要です。
固有感覚への注意を考える、二つの古典的研究
このテーマに直接関係するのが、WhitmontとClarkの1996年の研究です。9歳のADHD児24人と対照児24人を比較し、薬の服用を中断した条件で、運動覚の精度と微細運動の成績を調べました。ADHD群は両方の課題で成績が低かった一方、運動覚と微細運動の成績の関連は弱いものでした。著者らは結果を解釈する際に、固有感覚の信号へ注意を向けることの役割を議論しています。[4]
ここから、「ADHD児の中には、身体からの情報に十分注意を向けにくい子がいるのではないか」という仮説を考えることはできます。しかし、この研究は、注意の向け先を実験的に操作し、その変化が運動覚や手先の動きに及ぼす影響を直接確かめたものではありません。運動覚と微細運動の関連が弱かったことも、感覚の精度だけでは運動の成績を説明しきれないことを示唆します。著者の考察を、そのまま確定した原因へ置き換えないことが重要です。[4]
一方、Piekらの1999年の研究では、不注意優勢の群16人、混合型の群16人、対照群16人の男児を比較しています。ADHD群には運動協調の困難があり、不注意症状の強さは運動協調の困難を予測する要因になっていました。しかし、運動覚の感度については、有意な群間差が認められませんでした。先ほどの研究と合わせると、「運動の困難があること」と「運動覚の感度が低いこと」は、必ずしも同じではないと理解できます。[5]
二つの研究は古く、対象人数も限られていますが、現在も読み取るべき点があります。それは、都合のよい結果だけを取り出して一つの説明にまとめないことです。年齢や対象者の特徴、薬の条件、使用する課題によって、観察される成績は変わり得ます。臨床で感覚への注意を仮説にする場合にも、「その子の、どの課題の、どの条件で」という問いを残しておく必要があります。
触覚や体幹位置の研究から、何がわかるか
感覚の問題を注意だけで説明しない視点も必要です。Heらの2021年の研究では、ADHD、ASD、両者の併存、定型発達の子どもを対象に、触覚刺激の検出や弁別、刺激の順序判断を比較しました。ADHDに関連する特徴と、ASDに関連する特徴は、同じ課題に一様に現れるわけではありませんでした。感覚の検出、違いの識別、時間的な判断を分けてみることの重要性を示しています。[6]
ただし、この研究で調べた触覚の成績を、関節位置の感覚や筋の感覚と同じものとして扱うことはできません。逆に、注意が関わる課題だからといって、感覚に関係する違いをすべて「集中していなかっただけ」と片づけることも適切ではありません。どの感覚を、どの方法で測ったのかによって、導ける結論の範囲は変わります。行動だけから一つの神経機構へ飛躍しない姿勢が大切です。[6]
より新しい研究として、Katalkarらは2026年、8〜15歳のADHD児23人と対照児23人を比較し、体幹の位置再現、動的な移動課題、反応時間を調べました。ADHD群では体幹の位置再現誤差が大きく、Modified Timed Up and Goの所要時間や反応時間にも群差がありました。ADHD群内では、位置再現の誤差と移動課題の所要時間に相関が報告されています。位置の再現が難しい子ほど、移動課題にも時間がかかる傾向を示した結果と読めます。[7]
この研究も、感覚と運動の因果関係を証明するものではありません。横断研究であり、特別支援学校からの便宜的な募集、服薬条件、小児の神経発達領域では十分検証されていないスマートフォン測定の特性など、解釈上の限界があります。位置再現には記憶や注意、運動実行も必要です。「身体からの信号が弱いことが原因」と限定するのではなく、感覚と運動を合わせて評価する必要性を示す研究として捉えるのが妥当です。[7]
運動の予測と、「毎回同じように動けるか」という問題
動きを制御するとき、身体は結果が出るまで何もせず待っているわけではありません。過去の経験を使い、「このように動かしたら、このような感覚や結果になる」と予測しながら動きます。そして、予測と実際の結果のずれを利用して、その後の動きを調整していきます。こうした関係を説明する概念に「内部モデル」があり、感覚と運動を結びつける重要な考え方です。[2]
Izawaらの2012年の研究は、この視点からADHDの運動を考える際に役立ちます。新しい力学的な条件に合わせて到達運動を学ぶ課題を用い、ADHD児、ASD児、定型発達児を比較しました。この課題では、ADHD群の学習速度や学習の広がり方は、定型発達群と同様のパターンを示していました。ADHD群に特徴的だったのは、運動速度のばらつきが大きかったことです。[8]
この結果は、「ADHDでは感覚を統合して運動を学べない」と決めつける理解に修正を迫ります。ある動作を学ぶ仕組みが働いていても、その動作を毎回安定して実行することが難しい場合があります。臨床でも、平均点や一回の成功だけでなく、試行ごとの速度、誤り、成功率の変動をみる視点につながります。ただし、研究中の一つの到達運動の結果が、書字や着替えなど、すべての運動学習を代表するわけではありません。[8]
また、この研究でASD群にみられた固有感覚への偏りを、ADHDの特徴として紹介しないことも大切です。診断名の異なる群を比較した論文では、どの結果がどの群に対応するのかを丁寧に読む必要があります。ADHDとASDが併存する子どももいますが、それも個別に考えるべき条件です。「発達障害」という大きな括りだけで、同じ感覚の使い方を想定することはできません。[8]
内受容感覚の研究は、別の問いとして読む
ADHDでは、心拍や呼吸などの身体内部の状態に気づくことも研究されています。Brutonらの2025年の系統的レビューは、17論文に含まれる18研究をまとめています。ADHDの診断の有無を比較した5研究のうち3研究で、内受容感覚の指標の低下が報告されました。ただし、研究には診断群の比較だけでなく、一般集団でADHD症状と内受容感覚の関連を調べたものも含まれ、評価方法や対象は一様ではありません。[9]
心拍を捉える課題の正確さ、自分は身体の変化に気づきやすいという自己報告、正確さをどの程度自覚できるかは、区別される指標です。また、成人を対象とする研究の結果を、子どもの運動へそのまま当てはめることはできません。内受容感覚と不注意や情動調整との関連は重要な研究課題ですが、このレビューだけで「ADHD児は関節からの情報に注意を向けられない」と証明されたことにはなりません。[9]
実際の支援では、疲れや身体の不快感に気づきにくいことと、手足の位置を調整しにくいことが、同じ子に併存する場合もあるでしょう。その際にも、二つを別の問いとして確認した方が、支援の目標が明確になります。「休むタイミングを一緒に見つけること」と「ボールを狙った方向へ投げること」では、必要な観察や練習の内容が異なります。身体への気づきという共通語だけで、すべてを一つの課題にまとめないことが大切です。
身体へ注意を向ければ、運動は必ずよくなるのか
ここまで読むと、運動の支援では「もっと身体の感覚に集中させること」が大切だと思えるかもしれません。しかし、身体内部の情報を使うことと、身体の動かし方に意識を集中することは、やはり同じではありません。運動学習では、腕や指の動きそのものに注意を向ける「内的焦点」と、ボールの行き先など動作の効果に注意を向ける「外的焦点」が区別されます。どこへ注意を向けるよう伝えるかが、学習の仕方に関係することがあります。
Saemiらの2013年の研究では、8〜11歳のADHD児20人を、内的焦点と外的焦点の二つの指示群へ無作為に分けました。課題は、床に置かれた標的へテニスボールを投げることです。練習から48時間後に学習を評価すると、外的焦点の群が、より良好な成績を示しました。少なくともこの課題では、身体の動かし方を意識させることが、常に最良の方法とはいえなかったのです。[10]
ただし、20人という小規模な研究であり、投球以外の動作や、すべての子どもに同じ効果があるとは判断できません。また、外的焦点で成績がよかったことは、固有感覚を使わなくなったことを意味しません。目標に注意を向けながら、身体内部の情報による調整が進むことは両立します。「固有感覚が重要だから、常に身体の感覚を意識させるべき」という論理には、間に飛躍があるのです。[1, 10]
臨床では、たとえば「肘をこの角度にして」と説明した場合と、「ボールをこの印に届かせよう」と伝えた場合で、子どもの動きや理解がどう変わるかを観察する余地があります。これは、前述の研究を参考にした支援の工夫であり、その子の問題の原因を確定する検査ではありません。身体の状態を確かめる時間が役立つ場面もあれば、目標をわかりやすくする方が動きやすい場面もあります。大切なのは、声かけの数を増やすことより、何を手がかりにすると取り組みやすいかを見つけることです。
研究でわかることと、まだ言い切れないこと
| 研究 | 主な結果 | そこから言い切れないこと |
|---|---|---|
| Whitmont・Clark(1996)[4] | ADHD児で運動覚と微細運動の成績が低かったが、両者の関連は弱い | 固有感覚への注意の低下が、運動困難の原因と直接証明されたわけではない |
| Piekら(1999)[5] | 不注意症状と運動協調の困難に関連。運動覚の感度には有意な群差なし | ADHDの運動困難を、一律に運動覚の低下で説明することはできない |
| Izawaら(2012)[8] | 特定の到達運動では、ADHD群の学習は保たれ、運動速度のばらつきが大きい | すべての運動学習が正常、あるいはすべての感覚統合が障害されるとはいえない |
| Katalkarら(2026)[7] | 体幹位置の再現、移動課題、反応時間に群差。位置再現誤差と所要時間に相関 | 位置感覚の低下が、姿勢や移動の困難を一方向に生むとは断定できない |
| Jurekら(2025)[3] | 質問紙で評価する感覚処理の特徴に群差を示したメタ解析 | 質問紙の特徴を、そのまま感覚閾値や固有感覚の異常と同一視できない |
| Saemiら(2013)[10] | 小規模な投球研究で、外的焦点の指示による学習が良好 | 身体へ注意を向ける指示が常に悪い、あるいは外的焦点が全課題に最適とはいえない |
表2 対象や評価方法が異なるため、同じ原因を繰り返し証明した研究群として扱わないことが重要です。
評価では、実際の活動と「条件による変化」をみる
運動の困難がある場合は、まず、本人や家族がどの活動で困っているかを具体的にします。書字、食事、着替え、遊び、体育では、必要な感覚情報も運動の組み立ても異なります。「不器用」という一語でまとめるより、何をするときに、どのような失敗が、どのくらい起こるのかを確認した方が、支援へつながります。ADHD児の運動を扱ったKaiserらのレビューも、日常生活への参加を考えるうえで運動機能を評価する重要性を指摘しています。[11]
次に、同じ子どもの中で、条件を変えた際の違いをみます。周囲の刺激を減らしたとき、手順を短く示したとき、目標を見やすくしたとき、休憩を挟んだときに、成功の仕方や動きのばらつきがどう変わるでしょうか。条件を一度に多く変えると、何が役立ったかがわかりにくくなるため、確かめたい点を絞る方が整理しやすくなります。以下は研究結果を踏まえた観察の考え方であり、そのまま診断を行うための検査手順ではありません。
| 観察の問い | 確認したいこと |
|---|---|
| 静かな場所でも、同じような難しさが続くか | 周囲の刺激や注意の負荷との関係 |
| 短い説明や見本で、動作が変わるか | 課題理解、手順の保持、情報提示との関係 |
| 一度はできても、試行ごとの誤差が大きいか | 平均成績だけでは捉えにくい実行の安定性 |
| 狙う場所や結果を明確にすると、取り組みやすいか | 注意の向け先や手がかりの使い方との関係 |
| 学校、家庭、遊びなど複数の活動で困り続けているか | 生活への影響と、より詳しい運動評価の必要性 |
表3 条件によって改善したとしても、それだけで「感覚の問題はない」「原因は注意だけ」と結論づけることはできません。
困難が持続し、日常生活や学習、遊びへ影響している場合は、発達性協調運動症(DCD)の併存も含めて評価を検討します。DCDは単に運動が苦手という意味ではなく、発達や生活への影響、ほかの状態による説明などを合わせて判断するものです。ADHDの不注意があるからといって運動の問題をすべて説明したことにはならず、運動が苦手だからといって直ちにDCDと決まるわけでもありません。必要に応じて医師や作業療法士、理学療法士などが、生活場面と標準化された運動評価を組み合わせて検討します。[12]
支援は、刺激の量より「使える手がかりと活動の目標」へ
支援の第一歩は、その子が取り組みやすい環境をつくることです。NICEのADHDガイドラインは、周囲の刺激を調整すること、集中する時間を短く区切って身体を動かす休憩を入れること、口頭の指示に書かれた情報を添えることなどを、環境調整の例として挙げています。こうした考え方を運動場面へ応用し、必要な道具を絞る、見本を見やすくする、一度に伝える内容を整理するなど、その活動に合わせた方法を考えます。すべての子に同じ環境を用意するのではなく、本人の反応をみながら調整します。[13]
練習の目標は、「固有感覚を良くする」という抽象的な言葉だけでなく、「コップをこぼさずに運ぶ」「選んだ的へボールを投げる」など、本人の生活や楽しみと結びつく活動へ置きます。DCDの国際推奨でも、具体的な活動や参加に焦点を当てる支援が勧められています。ただし、DCDの推奨をADHD全般の治療効果として読み替えることはできません。運動協調の困難がある子への支援を考える際の、重要な参考になります。[12]
そのうえで、見える目標、触れてわかる道具の特徴、動作の見本、短く具体的なフィードバックなどから、その子が利用しやすい手がかりを探します。うまくいった条件を記録し、少し条件が変わっても使えるかを確かめると、練習した場面だけの成功で終わりにくくなります。こうした具体例は、感覚運動学習や環境調整の考え方を臨床へ応用した提案です。個々の工夫について、ADHD児への効果が一律に実証されているという意味ではありません。[2, 13]
身体の感覚を経験する遊びも、その子が参加しやすく、目標と結びついているなら、活動の一部として考えられます。しかし、強い刺激や重い負荷を増やせば、感覚への注意や運動制御が自動的に改善するとはいえません。この領域では、感覚の特徴があるという知見と、特定の感覚刺激を与える介入の有効性を分けて評価する必要があります。何の活動を改善したいのかを決め、実際の変化と負担の両方を確認することが大切です。
ADHDへの治療や服薬の状況も、評価の背景として共有します。薬物療法によって運動面の成績が変わる子もいますが、運動の困難が残る場合もあり、注意症状の改善だけで生活上のすべての運動課題が解決するとは限りません。ここでも、残った困難を努力不足と捉えず、必要な評価と活動に即した支援を続けることが重要です。[11]
「気をつけて」から、動きやすい条件を一緒に探すへ
ADHDの感覚と運動を考えるとき、感覚の精度だけでも、注意だけでも、十分な説明にはなりません。感覚を受け取り、必要な情報を選び、目標と照らし合わせ、動きを実行して修正するという流れの中で、どこに負担がかかっているかを考える必要があります。同時に、学べている部分、条件が合えば安定してできる部分も見つけたいところです。
たとえばコップを運ぶことに困っている子に、繰り返し「手に注意して」と伝えるだけでは、使いやすい情報が増えていないかもしれません。道具や置き場所、課題の長さ、声かけの向け先を調整すると、本人が持っている力を発揮しやすくなる可能性があります。その変化を観察しながら、さらに詳しい評価が必要な点を見極めていきます。「身体の感覚に注意を向けられない子」と固定的に捉えるよりも、どの情報を、どの条件なら動きに役立てられるかを、一緒に確かめることが支援の出発点になります。
関連する記事:ADHDとは?不注意・多動・衝動性の特徴、診断と支援を強みも含めて解説
参考文献・確認資料
原著研究、系統的レビュー、基礎的な総説、臨床推奨を区別して参照しました。原著の群間差や相関は、個人の原因や診断を確定するものではありません。文献・公式資料の確認日:2026年10月25日。
- Proske U, Gandevia SC. The proprioceptive senses: their roles in signaling body shape, body position and movement, and muscle force. Physiol Rev. 2012;92(4):1651–1697. [基礎的総説]論文
- Wolpert DM, Diedrichsen J, Flanagan JR. Principles of sensorimotor learning. Nat Rev Neurosci. 2011;12(12):739–751. [基礎的総説]論文
- Jurek L, et al. Sensory Processing in Individuals With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Compared With Control Populations: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Am Acad Child Adolesc Psychiatry. 2025;64(10):1132–1147. [系統的レビュー・メタ解析]論文
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- He JL, et al. Disorder-specific alterations of tactile sensitivity in neurodevelopmental disorders. Commun Biol. 2021;4:97. [原著研究]論文
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- Bruton AM, Levy L, Rai NK, Colgan DD, Johnstone JM. Diminished Interoceptive Accuracy in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: A Systematic Review. Psychophysiology. 2025;62(2):e14750. [系統的レビュー]論文
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- National Institute for Health and Care Excellence. Attention deficit hyperactivity disorder: diagnosis and management. NICE guideline NG87. [公式ガイドライン]推奨

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