応用行動分析学(ABA)とは?

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発達障害支援を変えた「行動の科学」を基礎から最新研究まで解説

発達障害のある子どもと関わっていると、「何度説明しても同じ行動を繰り返す」「どうして突然泣いたり怒ったりするのだろう」「褒めても叱っても、なかなか行動が変わらない」と感じることがあります。こうした場面で私たちはつい、「わがままだから」「我慢する力が弱いから」「性格の問題ではないか」と、その人自身の内面に原因を求めてしまいがちです。しかし、応用行動分析学(Applied Behavior Analysis:ABA)は、まったく違う視点から人間の行動を理解しようとします。

ABAが重視するのは、「この人はなぜこんな性格なのか」という問いではありません。「この行動が起こる直前には何があり、行動した直後には何が起きているのか」という、行動と環境との関係です。子どもが課題を提示された直後に泣き、その結果として課題が中止されるという経験が何度も続けば、本人が意識的に計算していなくても、「泣くと嫌なことから逃れられる」という学習が成立する可能性があります。逆に、「ちょうだい」と伝えた直後に欲しかったものが手に入る経験を繰り返せば、「ちょうだい」というコミュニケーション行動は増えていきます。

つまりABAとは、困った行動を単純に止めさせる技術ではありません。人間の行動がどのような環境との相互作用によって生まれ、維持され、変化していくのかを科学的に捉え、その人が生活しやすくなるように環境と行動の関係を再構築していく学問なのです。この視点を理解すると、「この子はどうしてできないのだろう」という問いが、「どういう条件を作れば、この子はできるようになるのだろう」という問いへ変わっていきます。ここにABAの最大の面白さがあります。

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ABAの基礎にある「行動は結果によって変化する」という考え方

応用行動分析学の土台には、行動分析学という科学があります。行動分析学では、人間や動物の行動が、行動の前後にある環境との関係によってどのように変化するのかを研究します。その中でも非常に重要なのが、ABC分析と呼ばれる考え方です。AはAntecedent、つまり行動の直前に起こる「先行事象」、BはBehavior、実際の「行動」、CはConsequence、その行動の直後に起こる「結果」を表します。

例えば、算数のプリントを出された子どもが突然大声を出し、その後先生が「今日はここまでにしよう」とプリントを片づけたとします。この出来事を一度だけ見れば、「算数が嫌いなのかな」と思う程度でしょう。しかし同じパターンが何度も繰り返され、大声を出すたびに難しい課題が終了しているのであれば、大声という行動には「課題から逃げられる」という結果が伴っていることになります。この結果が本人にとって価値のあるものであれば、大声を出す行動が徐々に増えていく可能性があります。

ここで重要なのは、子どもが頭の中で「よし、大声を出せば課題をやらなくて済むぞ」と計算している必要はないということです。私たち自身も、日常生活の中で同じような学習を無数に繰り返しています。シートベルトを締めると警告音が止まるため、車に乗るとすぐにシートベルトをするようになる。スマートフォンを確認すると、ときどき面白い通知が届いているため、何度もスマートフォンを確認するようになる。SNSを開くと、ときどき「いいね」が増えているため、また開きたくなる。こうした行動の多くは、行動の直後に生じた結果によって維持されています。

この「行動の後に起きた結果によって、将来その行動が増える」という現象をABAでは「強化」と呼びます。一般的な会話では「褒めること」や「ご褒美を与えること」を強化と考えがちですが、行動分析学における定義は少し異なります。褒めたかどうかではなく、その結果として本当に行動が増えたかどうかが重要です。教師が毎回「偉いね」と褒めていても、子どもの行動がまったく増えなければ、その褒め言葉はその子にとって十分な強化子ではない可能性があります。

反対に、大人から褒められることにはあまり興味がなくても、大好きな電車の本を見られることなら行動が増える子どももいます。一人で静かな場所に行けることが大きな価値を持つ人もいれば、友達と話せることが価値になる人もいます。何が強化として働くかは、一人ひとり異なります。そのためABAでは、「普通はこれがご褒美になるはず」と決めつけるのではなく、その人にとって何が本当に行動を動かしているのかを観察します。

問題行動の「形」ではなく「機能」を見る

ABAが発達障害支援で非常に重要な理由の一つに、「行動の形ではなく機能を見る」という考え方があります。同じ「泣く」という行動であっても、その理由はまったく異なる場合があります。難しい課題から逃げるために泣いていることもあれば、大人に来てもらうために泣くこともあります。欲しい物を手に入れるための場合もあれば、強い音や光、触覚刺激などから離れるための場合もあります。また、行動そのものが本人にとって心地よい感覚刺激を生み出しているケースもあります。

そのため、「泣いたら無視しましょう」「癇癪には反応しないようにしましょう」という一律の対応は、本来ABA的とは言えません。もしその子が騒音による強い感覚過敏で泣いていたとしたら、無視することでは根本的な解決になりません。痛みや体調不良がある可能性もありますし、そもそも「嫌だ」「休みたい」「助けて」と伝えるコミュニケーション手段がないために、泣くしかないのかもしれません。

例えば、自閉スペクトラム症の5歳児が、療育中に難しい課題を出されると教材を投げ、大声で泣いていたとします。簡単な課題では問題ありませんが、難しい課題が数問続くと癇癪が起き、癇癪が起こると大人は課題を中止していました。この場合、癇癪には「難しい課題から逃れられる」という機能がある可能性があります。

ここで「癇癪を起こしたら絶対に休ませない」という対応だけを行うと、本人にとっては非常に苦しい状況になるかもしれません。ABAではむしろ、「休憩」「手伝って」「難しい」といった、同じ目的を果たせる別の行動を教えます。言葉で伝えることが難しければ、絵カードを渡す、ジェスチャーを使う、AACを利用するといった方法でも構いません。そして本人が適切な方法で休憩を要求したときには、実際に休憩できる経験を作ります。

このように、問題行動が果たしていた役割を、より安全で社会的に使いやすいコミュニケーションへ置き換えていく方法を機能的コミュニケーション訓練(Functional Communication Training:FCT)と呼びます。重要なのは、癇癪という「行動だけ」を奪うのではなく、その行動によって本人が得ていたものを理解し、それをより適切な方法で得られるようにすることです。

ここにはABAの本質がよく表れています。問題行動とは、本人がわざと周囲を困らせている行動とは限りません。むしろ、「その人が現在持っている方法の中では、それが最も有効だった」という場合があります。だからこそ支援者がすべきことは、その行動を責めることよりも、もっと簡単で安全で効果的な行動を本人に提供することなのです。

ABAでは「できない」を細かく分解する

発達障害支援では、「着替えができない」「片づけができない」「挨拶ができない」「一人で準備できない」といった相談がよくあります。しかしABAでは、「できない」という言葉をそのまま受け入れません。なぜなら、一つに見える行動も、実際には多くの小さな行動から構成されているからです。

例えば「歯を磨く」という動作だけを考えても、歯ブラシを取る、歯磨き粉を取る、キャップを開ける、歯ブラシに歯磨き粉をつける、歯を磨く、水を出す、口をすすぐ、歯ブラシを洗う、元の場所に戻すという複数の行動が含まれています。知的障害や発達障害がある人が「歯磨きができない」と言われていても、細かく観察してみると、歯を磨くことそのものはできているのに、次に何をすればいいのか分からなくなっているだけかもしれません。

そこでABAでは、複雑な活動を一つひとつの行動に分解する「課題分析」を行い、それぞれを順番につなげて学習していきます。これをチェイニングと呼びます。また、最初から完成形を求めるのではなく、目標に少し近い行動から強化して少しずつ完成形へ近づける方法をシェイピングと呼びます。

発語のない子どもにいきなり「おはようございます」と言わせるのではなく、まず声が出たことを評価し、「お」に近い音が出ればさらに反応し、「おは」と徐々に目標へ近づけていく。歩行練習でも、最初から100m歩くことを求めるのではなく、立位保持、重心移動、一歩、数歩と少しずつ成功経験を積んでいく。ABAの考え方は教育だけでなく、リハビリテーションにも非常によく似ています。

「この人にはできない」と考えてしまうと、そこで支援は止まってしまいます。しかしABAでは、「どの部分まではできて、どの部分から難しくなっているのか」を探します。巨大な「できない」を、小さく解決可能な問題へ分解する。この発想は、発達支援だけでなく医療、教育、介護、さらには私たち自身の習慣形成にも応用できます。

ABA療育は「机に座ってカードを繰り返す訓練」だけではない

ABAという言葉から、子どもが机に座り、支援者がカードを見せ、「これは何?」と質問し、正解したら褒めるという療育を想像する人も少なくありません。これは離散試行訓練(Discrete Trial Training:DTT)と呼ばれる方法のイメージに近いものです。DTTでは、課題を細かい単位に分けて、「指示→反応→結果」という学習サイクルを明確にし、多くの試行を繰り返します。特定の技能を効率的に教えるうえでは現在でも利用されている重要な方法です。

しかし、現代のABA療育はDTTだけではありません。近年特に注目されているのが、Naturalistic Developmental Behavioral Interventions、略してNDBIと呼ばれる「自然主義的発達行動介入」です。これはABAの行動学習理論と、発達心理学の知見を組み合わせたアプローチで、Early Start Denver Model(ESDM)やPivotal Response Treatment(PRT)などが知られています。

NDBIでは、大人が決めた課題だけを繰り返すのではなく、子どもが自然に興味を示している遊びや活動を学習機会として利用します。例えば子どもがミニカーで遊びたがっているなら、ミニカーそのものを使って「ちょうだい」「もう一回」「どっち?」といったコミュニケーションを引き出します。積み木が欲しそうなら、本人が欲しい瞬間を利用して要求表出を促します。うまく伝えられた結果として、そのまま積み木で遊べるので、学習と強化が日常生活の中で自然につながります。

この考え方は非常に重要です。子どもが療育室では「ちょうだい」と言えるのに、自宅ではまったく使わないのであれば、生活上の意味は限定的です。学習した行動が家庭、保育園、学校、公園など別の環境でも自然に使えることを「般化」と呼びますが、現在のABAでは、この般化が非常に重視されています。

近年のNDBI研究では、幼児期の自閉スペクトラム症に対して、社会的コミュニケーション、言語、遊び、認知、適応行動などに一定の効果が報告されています。その一方で、すべての子どもが同じ程度に改善するわけではなく、介入によって直接練習した技能では改善がみられても、その効果が日常生活全般にどの程度広がるかについては、より慎重に評価する必要があることも指摘されています。

この点は非常に興味深いところです。「療育の場でできるようになった」という結果と、「生活が変わった」という結果は同じではありません。ABA研究が成熟するにつれて、単に課題の正答率が上がったかを見るだけでなく、本人の学校生活や家庭生活、コミュニケーション、参加、QOLが本当に改善したのかを見る方向へと研究が進んでいます。

AAC、保護者支援、早期介入――現代ABAはどう変化しているのか

現代のABAにおける大きな変化の一つが、コミュニケーションに対する考え方です。以前は「言葉を話せるようにすること」が強く重視される傾向もありましたが、現在は音声言語だけを唯一のコミュニケーション手段とは考えません。AAC(Augmentative and Alternative Communication:拡大・代替コミュニケーション)として、絵カード、コミュニケーションボード、タブレット端末、音声出力装置などを利用する方法があります。

発語が非常に少ない自閉スペクトラム児を対象とした近年の研究では、NDBIだけでも言語やコミュニケーションへの改善がみられる一方、AACを組み合わせることで、さらに大きなコミュニケーション上の利益が得られる可能性が示されています。これは「AACを使ったら言葉を話さなくなるのではないか」という昔からの心配に対しても重要な示唆を与えています。

そもそもコミュニケーションの目的は、「口から音声を出すこと」ではありません。自分の要求、気持ち、考え、拒否、助けてほしいことを、相手へ伝えられることです。本人が最も使いやすい手段を増やし、「伝えたら相手に伝わった」という成功経験を積み重ねることが重要なのです。

また、専門家だけが療育を行うのではなく、保護者が日常生活の中でABAやNDBIの考え方を活用する「保護者媒介型支援」も研究されています。専門家が子どもに直接関われる時間には限界がありますが、家庭には朝起きてから夜眠るまで無数の学習機会があります。食事、着替え、遊び、買い物、公園、入浴などの日常場面の中で、本人が自然にコミュニケーションを使える環境を作ることができます。

ただし、「親が毎日セラピストとして訓練し続けなければならない」という意味ではありません。近年の研究でも、子どものスキルが向上したからといって、家族全体のQOLや親の負担が必ず改善するわけではないことが示されています。子どもの発達だけを見るのではなく、保護者が疲弊しないこと、家族として普通に生活できることも支援のアウトカムに含める必要があります。

さらに、昔のABAでは「長時間介入すればするほどよい」と考えられる傾向もありました。早期集中行動介入では週20~40時間規模の介入が行われることもあります。しかし近年の研究では、「単純に時間数が多ければ多いほど全員に効果的」と言い切れるほど単純ではないことが分かってきています。介入量だけでなく、子どもの発達水準、特性、家庭環境、目標、方法、本人の負担などを考慮しながら個別に設計する必要があります。

現在のABA研究で重要な問いは、「ABAは効くか、効かないか」ではありません。どのような子どもに、どのような目標を設定し、どの方法を、どの程度行えば、その人の生活にとって意味のある変化が生じるのかという、より精密な問いへ変化しています。

ABAへの批判と、ニューロダイバーシティという新しい視点

ABAについて学ぶときには、その有効性だけではなく、批判についても知っておく必要があります。歴史的な行動療法では、現在の倫理基準から考えると問題のある罰的手続きや嫌悪刺激が使用された時代がありました。また、自閉スペクトラム症の人を「できるだけ定型発達者のように見せる」ことを成功と考える価値観が強かった時代もあります。

例えば、アイコンタクトを増やす、手をひらひらさせる行動をなくす、特定の興味について話すのを抑える、常に大人の指示に従わせるといった目標です。しかし、これらの行動を減らすことが本人の安全や生活の改善につながるのであれば意味がありますが、単に「周囲から普通に見えるから」という理由だけで変えるのであれば慎重に考える必要があります。

近年はニューロダイバーシティという考え方が広がっています。自閉スペクトラム症を単純に「正常から外れた状態」として捉えるのではなく、人間の神経学的な多様性の一つとして認識し、本人の強みや個性を尊重しようという考え方です。この視点から見ると、「ABAでどの行動を変えるのか」という目標設定そのものが非常に重要になります。

例えば、手をひらひらさせる常同行動が本人の感情調整に役立っており、自分にも周囲にも害がないのであれば、無理に減らす必要はないかもしれません。一方で、頭を壁に強く打ち続けるような自傷行為であれば、安全上の理由から介入する必要があります。あるいは、自分の要求を伝えられないために一日に何度も激しいパニックになるのであれば、「パニックを抑える」ことではなく、「要求や拒否を伝える手段を増やす」ことが重要な目標になります。

この違いは非常に重要です。ABAの技術を使えば、さまざまな行動を変えられる可能性があります。しかし、技術的に変えられることと、倫理的に変えるべきことは同じではありません。

そのため現代のABAでは、「社会的妥当性」という考え方がますます重要になっています。支援目標が本人にとって本当に意味があるのか、介入方法は本人にとって受け入れられるものなのか、得られた変化によって本人の生活が実際に良くなったのかを評価します。単に「問題行動が50%減った」という数字だけでは、その介入が良い支援だったとは言い切れません。

さらに近年注目されている考え方に「アセント(assent)」があります。未成年者や、自分自身で法的なインフォームド・コンセントを行うことが難しい人であっても、可能な範囲で「参加したい」「やりたくない」という本人の意思を尊重しようという考え方です。保護者が療育へ同意しているからといって、本人が激しく逃げようとしているのに毎回無理に課題を続ければよいわけではありません。「なぜ嫌がっているのか」「難しすぎるのか」「疲れているのか」「刺激が強すぎるのか」「別の方法なら参加できるのか」と考えることが必要です。

このような変化を背景として、現在は「Neurodiversity-Affirming ABA」、つまりニューロダイバーシティを尊重するABAについても盛んに議論されています。自閉症らしさそのものを消すことを目的とするのではなく、自閉スペクトラムの人がその人らしいまま、安全に生活し、自分の意思を伝え、選択肢を増やしていくために行動科学を利用するという方向です。

アイコンタクトを無理に増やすのではなく、本人が会話しやすい方法を考える。こだわりを無理に消すのではなく、その興味を学習や社会参加につなげる。パニックだけを止めようとするのではなく、感覚環境を調整し、「嫌だ」「休みたい」と伝えられるようにする。このように考えれば、ABAとニューロダイバーシティは必ずしも対立するものではありません。

ABAを知ると、人間の見方が変わる

ABAを学び始めると、強化、消去、弁別刺激、シェイピング、プロンプト、チェイニングなど多くの専門用語が登場します。しかし、本当に面白いのは用語そのものではありません。ABAを深く学ぶと、人間の行動を「性格」や「根性」で説明することが少しずつ減っていきます。

例えば、学校へ行けない子どもがいたとします。「意欲がない」「怠けている」と考えることもできます。しかし朝の準備が複雑すぎるのかもしれません。学校で何が起こるか分からない不安が強いのかもしれません。教室の騒音が耐え難いのかもしれません。最初の授業で失敗経験が多く、「学校へ行く」という行動に嫌な結果が結びついているのかもしれません。そう考えると、支援の方法はまったく変わります。

仕事を先延ばしする大人も同じです。「自分は意思が弱い」と考えるより、課題が大きすぎる、報酬が遠すぎる、スマートフォンという強力な即時強化子が目の前にあると分析した方が対策を立てやすくなります。仕事を2分だけ始める、スマートフォンを別の部屋へ置く、一つ終わったらチェックをつける。環境を変えるだけで行動は大きく変わることがあります。

リハビリテーションでも同じです。「リハビリ拒否がある」「意欲が低い」と記録するだけでは、その人の行動は理解できません。訓練内容に意味を感じていないのかもしれません。痛みがあるのかもしれません。疲れているのかもしれません。本人が本当にやりたい生活目標と、訓練内容がつながっていないのかもしれません。

ABAの本質は、人を操作することではありません。

人間は環境と相互作用しながら行動している。だから、本人だけを変えようとするのではなく、環境の方を変えることもできる。

この発想に気づくと、「できない人」「やる気のない人」「困った子」という見方から少し離れることができます。そして、「何を変えれば、この人にとってもっと成功しやすい環境になるのだろう」と考えられるようになります。

まとめ――ABAは「行動を変える科学」から「人生の選択肢を増やす科学」へ

応用行動分析学は、人間の行動を環境との相互作用から理解する科学です。ABC分析、強化、シェイピング、チェイニング、機能的行動アセスメント、FCT、DTT、NDBIなど、数多くの理論と技法が発達してきました。特に自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害領域では、コミュニケーション、言語、適応行動、社会参加などを支援する方法として多くの研究が行われています。

一方で、現代の研究は「ABAを行えばすべての子どもが大きく改善する」という単純な結論を支持しているわけではありません。どのような介入がどの子どもに合うのか、学んだ技能が日常生活へどれだけ般化するのか、長期的にどの程度意味のある効果が残るのか、家族や本人のQOLがどのように変化するのかといった課題が残されています。

そして現在のABAにとって、効果以上に重要になりつつあるのが「何を目標にするか」という問題です。自閉スペクトラム症の人を定型発達者のように見せることを目的とするのではなく、安全に生活できること、自分の要求や拒否を伝えられること、助けを求められること、自分で選択できること、好きな活動に参加できること、学校や家庭、地域の中でその人なりの方法で生活できることを支援する。その方向へABAは変化しつつあります。

「どうすれば問題行動をなくせるか」ではなく、「その人は何を伝えようとしているのか」。

「どうすれば言うことを聞かせられるか」ではなく、「どうすれば本人が自分で選び、成功できる環境になるのか」。

この視点に立つと、ABAは単なる行動修正の技術ではありません。

その人が人生で使える選択肢を、一つずつ増やしていくための科学として捉えることができます。

そしてABAを学ぶ面白さは、発達障害支援だけにとどまりません。なぜ私たちはスマートフォンを何度も確認してしまうのか、なぜ運動を続けられる人と続けられない人がいるのか、なぜ同じ叱り方を繰り返しても子どもの行動が変わらないのか、なぜ職場で特定の行動だけが定着するのか。日常生活のさまざまな出来事が、「行動と環境の関係」という新しい角度から見えるようになります。

人はなぜ、その行動をするのか。

その問いを、感覚や精神論だけではなく科学的に考えてみたい人にとって、応用行動分析学は非常に奥深く、面白い学問なのです。

ABAをさらに学びたい人におすすめの本

この記事を読んでABAに興味を持った方は、書籍で一度体系的に学んでみると、日常生活の見え方が大きく変わります。

まず、行動分析学を初めて勉強する人には『メリットの法則 行動分析学・実践編』のような、日常生活と行動分析を結びつけて説明している本がおすすめです。「なぜ人は分かっていても行動できないのか」「なぜ注意しても同じ行動が続くのか」といった身近なテーマから強化や行動の原理を理解できるため、専門書に入る前の一冊として読みやすいでしょう。

もう少し専門的に学びたい医療・福祉・教育職の方には、『応用行動分析学(ABA)テキストブック 基礎知識から保育・学校・福祉場面への応用まで』のような体系的な書籍が向いています。強化や消去などの基本原理だけでなく、実際の支援へどのように落とし込むのかを整理して理解したい人には、専門書を一冊手元に置いておくと非常に役立ちます。

保護者や、まず家庭で使える方法を知りたい支援者には、『発達の気になる子の「困った」を「できる」に変えるABAトレーニング』のような実践書から入る方法もあります。家庭の中には、着替え、食事、片づけ、コミュニケーション、宿題など、ABAの考え方を利用できる場面が数多くあります。専門用語を覚えることよりも、「子どもの行動をどう観察し、どのように環境を変えるのか」を知りたい人には、実践型の書籍の方が入りやすいかもしれません。

ABAを一冊学ぶと、発達障害のある子どもを見る目だけではなく、自分自身の習慣や周囲の人間の行動まで少し違って見えるようになります。「この人はなぜこんなことをするのだろう」と思ったときに、人を責める前に、「この行動が続いている環境には何があるのだろう」と考えられるようになるからです。

興味を持った方は、ぜひ自分に合った一冊からABAの世界を覗いてみてください。

メリットの法則 行動分析学・実践編 (集英社新書) [ 奥田 健次 ]価格:968円
応用行動分析学(ABA)テキストブック 基礎知識から保育・学校・福祉場面への応用まで [ 野呂 文行 ]価格:3960円
発達の気になる子の「困った」を「できる」に変える ABAトレーニング [ 小笠原恵 ]価格:1760円

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