病院の作業療法はどう変わった?政策・診療報酬から読む過去・現在・未来

病院の作業療法。政策・診療報酬で読む過去・現在・未来。作業療法士と患者が生活動作を練習するイラスト。 リハビリ・運動療法

病院でリハビリテーションを受けた人が、退院前にこう話すことがあります。「手は前より動くようになりました。でも、家に帰ってから暮らしていけるかが心配です」。この言葉には、病院の作業療法を考えるうえで大切な問いが含まれています。身体機能が回復することと、生活が成り立つことはつながっていますが、同じ意味ではありません。

食事をする、トイレに行く、服を着る、薬を管理する、家族と過ごす。病院で取り戻した力が、退院後の一日の中で使えるようになって初めて、治療の成果が生活につながります。政策と診療報酬の歴史をたどると、日本の医療が、この「治療から生活への接続」を少しずつ重視してきたことが見えてきます。

この記事では、勉強会で整理した内容をもとに、急性期、回復期、地域包括ケア病棟における作業療法の役割を考えます。制度情報は2026年10月4日時点の厚生労働省公表資料で確認しました。個々の算定判断は最新の告示、通知、疑義解釈によりますが、ここでは制度の背景と臨床の意味を中心に読み解いていきます。

1.作業療法の「作業」は、その人の暮らしをつくるもの

作業療法の作業という言葉から、工作や手芸を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、作業療法が扱う範囲には、食事や着替え、家事、仕事、学習、遊び、余暇、人との交流など、その人にとって意味のある生活行為が含まれます。日本作業療法士協会の定義も、作業に焦点を当て、人々の健康と幸福を支えることを示しています。[1]

同じ「コップを持つ」という動作でも、何のために持ちたいのかによって支援は変わります。水分を自分で取るためなのか、家族にお茶をいれるためなのか、仕事で接客するためなのか。それぞれに必要な身体機能、認知機能、環境条件、時間の余裕、人の支えは異なります。動作を生活の目的から理解することが、作業療法の特徴です。

したがって、関節可動域や筋力を調べることは大切でも、それだけで評価は終わりません。本人の生活歴、得意な方法、習慣、価値観、家の構造、家族との関係まで視野に入れます。病院であれば、疾患によって失われた能力を見極めながら、その能力がどの生活場面に影響しているのかを具体化する必要があります。

この視点は、病院の機能が変わっても共通しています。急性期では生活機能を守り、回復期では生活行為を組み直し、退院支援では地域で実行できる形に整える。支援の時期や方法が違っても、その人の一日を成立させるという目的はつながっています。

2.制度の歴史を読むと、病院に求められる役割が見える

日本では1965年に理学療法士及び作業療法士法が制定され、専門職の資格制度が整いました。1974年には作業療法に対する診療報酬上の評価が導入され、医療の中で提供するための経済的な仕組みも形づくられていきます。ただし、制度に位置づけられることと、現場のすべてで十分なサービスが提供されることは別の問題です。[2]

その後、2000年に回復期リハビリテーション病棟入院料が設けられました。急性期治療の後に、日常生活動作の改善と社会への復帰を集中的に支える場が、診療報酬として明確になった節目です。2006年の疾患別リハビリテーション体系、2014年の地域包括ケア病棟の登場も、病院の機能分化を理解するうえで重要です。[3][11][12]

時期 制度上の節目 作業療法を考える視点
1965年 理学療法士及び作業療法士法 専門職としての基盤が整う
1974年 作業療法の診療報酬上の評価 医療として提供する仕組みが広がる
2000年 回復期リハビリテーション病棟 ADLと生活への復帰を集中的に支える
2006年 疾患別リハビリテーション体系 疾患・状態に応じた医療提供を整理する
2014年 地域包括ケア病棟 急性期後と在宅生活の間をつなぐ
2026年 早期・休日リハや回復期評価の見直し 時期、継続性、成果、連携を考える

この変化を「昔は機能訓練、今は生活支援」と単純に分けることはできません。以前から生活を重視した実践はあり、現在も身体機能への専門的な介入は欠かせないからです。制度の変化が示しているのは、機能回復に加えて、生活の成果や医療と介護の接続を、組織として説明する必要が高まってきたということです。

診療報酬は、社会が医療に何を期待しているかを映す仕組みでもあります。どの時期に介入するのか、どのような体制を整えるのか、どこに情報を渡すのか。その評価の変化を読むと、個々の治療技術だけでなく、病院全体の役割が見えてきます。

3.政策、診療報酬、治療のエビデンスは、それぞれ役割が違う

政策は、医療提供体制をどの方向に整えるかを示します。診療報酬は、保険診療で評価する行為や体制、算定条件を定めます。そして治療のエビデンスは、ある介入が、どのような人に、どの程度役立つかを検討するものです。この三つを混同すると、制度の説明が治療効果の断定に変わってしまいます。

例えば、ある加算が新設されたとしても、それだけで特定の治療法がすべての患者に有効だと証明されたわけではありません。反対に、臨床上意味のある支援でも、独立した加算が設定されていないことがあります。制度の評価と臨床の必要性は重なる部分がありながら、完全には一致しません。

現場では、本人の目標と医学的な安全性を起点に支援を組み立て、その内容が制度のどこに位置づくかを確認する順序が役立ちます。算定のために活動を選ぶと、生活の目的が後回しになるおそれがあります。必要な支援を続けられる体制をつくるために制度を学ぶ、という考え方が重要です。

この記事で紹介する実践例も、その考え方を説明するためのものです。具体的な介入内容や負荷量は、疾患、重症度、発症時期、医師の指示、本人の希望によって異なります。政策の方向性を、そのまま一人の患者への処方に置き換えることはできません。

4.急性期の作業療法は、入院で崩れやすい生活機能を守る

急性期の病院では、病気やけがへの治療が最優先です。その一方で、入院によって普段の生活が大きく変わります。活動量が減り、食事や排泄が介助中心になり、昼夜の感覚が乱れ、家族との接点も少なくなることがあります。作業療法では、病状を確認しながら、今できる生活行為をどう保つかを考えます。

例えば、ベッド上での食事が必要な人でも、姿勢、食器の位置、上肢の支持、視野、疲れやすさを調整することで、本人が参加できる部分が変わることがあります。すべてを介助するよりも、可能な工程を本人が担えるようにするほうが、生活の実態を把握しやすくなります。ただし、安全な嚥下や医学的管理を前提に、関係職種と協力して行います。

ナースコールも、置いてあるだけでは使えるとは限りません。麻痺や感覚障害でボタンを押せない、注意が向かない、使い方を理解できない、遠慮して呼べないなど、背景はさまざまです。道具の操作と認知面、本人の気持ちを一緒に見ることで、困ったときに援助を求められる環境に近づけます。

急性期の成果は、歩行距離だけでは表せません。食事に参加できる、必要を伝えられる、離床の時間を確保できる、昼間に目的のある活動を行える。こうした変化は小さく見えても、その後の回復と退院支援を考えるための大切な情報になります。

5.2026年改定の早期・休日リハを、開始時期と継続性から読む

2026年度診療報酬改定では、早期リハビリテーション加算の評価と起算の考え方が見直されました。概要資料では、入院後3日目までを1単位につき60点、4日目から14日目までを25点とし、転院の場合には転院前の入院日を起算日に含める扱いが示されています。従来の「いつリハを始めたか」だけで考えると、改定後の制度を読み違える可能性があります。[5]

休日リハビリテーション加算も新設されました。対象となる疾患別リハビリテーション、患者、期間、休日等の条件を満たす場合の評価で、単に土日に実施すればすべて算定できる仕組みではありません。病棟の提供体制を評価する加算と、個別の疾患別リハに付くこの加算も、区別して理解する必要があります。[5][6]

ここから読み取れる政策上の方向は、早い時期の介入と、必要なリハを途切れさせにくい体制への評価です。ただし、早ければ早いほどよい、休日も一律に同じ負荷をかける、といった結論にはなりません。循環・呼吸状態、意識、疲労、術後の制限などを見ながら、本人に必要な活動を安全に選ぶことが前提です。

早期リハ、初期リハ、急性期リハという名称にも注意が必要です。似た言葉でも、対象となる患者や算定期間、評価する状態が異なります。[5] 概要の点数だけを横に並べるより、自院で対象となる患者について、起算日、医学的な状態、実施内容、必要な記録を確認することが実務では重要です。

作業療法士にとっては、「開始した」という記録だけでなく、その時点で何ができ、何が危険で、次の担当者が何を継続するのかを伝えることが重要になります。平日と休日で担当者が変わっても、食事、排泄、移乗などの支援方針がつながるようにする。制度の変化を日々の引き継ぎの改善へ落とし込むと、臨床との距離が縮まります。

6.回復期では、訓練室の能力を一日の生活へ広げる

回復期リハビリテーション病棟は、病状が一定程度落ち着いた人に、生活機能の回復を集中的に支える場です。ここでは、身体機能への介入と日常生活動作の練習を結びつける必要があります。訓練室でできることが増えても、病棟では介助が続いているなら、その違いを確かめることが次の支援につながります。

例えば、更衣を午前中の静かな環境で行う場合と、疲れた夕方に急いで行う場合では、同じ人でも難しさが変わります。椅子の高さ、衣服の種類、声かけの量、周囲の刺激によっても結果は変わります。できるかどうかだけでなく、どの条件なら再現できるのかを調べることが、生活に使える能力を育てるうえで大切です。

2026年改定では、回復期の成果評価や体制が見直され、回復期リハビリテーション強化体制加算が新設されました。一定の実績指数、退院前訪問指導、排尿自立支援などに関する条件が示されています。こうした項目は、集中的なリハを退院後の暮らしまでつなげる方向として読むことができます。[6]

一方、施設基準を満たすことと、個々の患者が納得できる退院を迎えることは同じではありません。本人が何を取り戻したいか、家族がどの程度支えられるか、地域で何を利用できるかを確認する必要があります。回復期の強みは、生活の試行錯誤をチームで重ね、退院後に使う方法を具体化できる点にあります。

7.FIMやBIは共通言語になるが、その人の生活全体ではない

FIMやBarthel Indexは、日常生活動作の状態を共有するための評価です。評価者が基準を理解し、同じ考え方で採点することによって、変化や介助量を比較しやすくなります。病棟内で「自立」「見守り」「介助」という言葉の意味がばらばらであれば、支援方針も一致しにくくなるため、標準化には大きな意味があります。

ただし、点数の上昇だけで、その人の生活の満足度や役割の回復を説明できるわけではありません。自宅で家族に食事を用意したい、畑に出たい、仕事へ戻りたいという願いには、基本的なADLを超えた要素があります。必要な評価を追加し、本人の目標と日常生活動作の変化を結びつけて考えます。

また、補助具や環境調整によって生活が安定する場合、身体機能の大きな改善がなくても重要な成果が生まれます。反対に、機能が改善していても、本人が使いたい場面で使えなければ、生活上の困難は残ります。数値は判断を助けますが、数値だけで目標を決めない姿勢が必要です。

評価を患者に説明するときも、「点数が上がりました」で終えるより、「家で一人になる時間のトイレ動作に近づいています」と生活の言葉に置き換えると意味が伝わります。家族や地域の支援者に対しても、点数に加えて具体的な方法と必要な条件を伝えることで、情報が使える形になります。

8.地域包括ケア病棟は、病院と在宅の境目を支える

地域包括ケア病棟には、急性期治療後の受け入れ、在宅療養中の人への対応、在宅復帰支援という役割があります。回復期リハ病棟と重なる支援もありますが、対象者や入院の背景、医療提供の枠組みは同じではありません。「どちらもリハをする病棟」と理解するだけでは、必要な役割分担を捉えにくくなります。[4][12]

ここで重要になるのは、入院前の暮らしが、今回の病気や入院でどのように変わったかです。肺炎の治療は進んでも、体力が落ち、以前はできていた入浴や買い物が難しくなることがあります。家族の介護力やサービスの利用状況も変わっているかもしれません。医学的な回復と生活の再調整を同時に考えます。

作業療法では、退院に必要な生活行為を優先し、限られた期間で課題を絞ることが求められます。すべてを入院前と同じに戻すより、今の能力と支援で無理なく続けられる方法を探すほうが現実的な場面もあります。本人の希望を確認しながら、福祉用具、住宅環境、介護サービス、家族への説明を組み合わせます。

例えば、浴槽への出入りが難しい人に対しては、動作練習だけでなく、退院直後はどこで誰と入浴するかを決める必要があります。通所サービスでの入浴を利用する場合も、自宅でどこまでできるかを把握しておくと、将来の見直しに役立ちます。退院は最終到達点ではなく、地域で生活を続けるための一つの区切りです。

9.高次脳機能障害や認知面の課題を、動作の中で捉える

病院の作業療法では、麻痺や筋力低下だけでなく、注意、記憶、遂行機能、視空間認知などが生活に与える影響も考えます。椅子から立てるのに、ブレーキを確認せずに動き出す。料理の一工程はできるのに、複数の工程を順番に進められない。こうした困難は、身体機能の検査だけでは十分に説明できません。

動作の失敗を、すぐに「理解していない」「やる気がない」と判断することは避けたいところです。説明の長さ、情報の提示方法、周囲の刺激、疲労、感覚障害など、本人と課題と環境の組み合わせを確かめます。個別の評価に基づき、手順を見える形にする、一度に伝える情報を減らす、物の位置を決めるといった支援を検討します。

認知面の問題がある人ほど、訓練室での成功をそのまま病棟や自宅に一般化できるとは限りません。実際の場所や道具で確かめ、必要な支援を残すことが重要です。家族には、何を代わりに行い、どの工程を本人に任せるとよいかを具体的に説明する必要があります。

この視点は、退院後の事故予防だけでなく、本人の参加を増やすことにもつながります。「危険だから全部介助する」と「できるから全部任せる」の間には、多くの選択肢があります。援助を求める方法、確認の仕組み、休憩の取り方を整え、本人が取り組める範囲を探していきます。

10.リハビリ、栄養、口腔を一緒に考える理由

生活行為には、運動だけでなく、身体を支えるエネルギー、食べる力、口腔の状態が関わります。食事量が落ちている人に運動の量だけを増やしても、思うように進まないことがあります。口腔の痛みや義歯の問題で食事が難しい人も、姿勢や注意の問題で食べにくい人もいます。

2026年改定の包括的な入院医療に関する説明でも、リハビリテーション・栄養・口腔の連携が扱われています。[6] 作業療法士が栄養や歯科の専門判断を代わりに行うという意味ではありません。生活場面の観察で得た情報を、専門職の評価につなぎ、支援をそろえることが大切です。

例えば、「食事の後半になると手が止まる」という場面には、疲労、姿勢の崩れ、注意の低下、食器の扱いにくさなどが関わる可能性があります。管理栄養士、看護師、言語聴覚士、歯科職種、医師と情報を共有し、何を調べるべきかを整理します。観察だけで原因を決めつけず、複数の専門性を組み合わせます。

この連携は、カンファレンスを開いたという事実だけでは完成しません。食事の姿勢、時間、介助方法、活動量、休憩など、翌日の生活場面で変える内容まで決める必要があります。共同で立てた方針が実際のケアに反映されているかを確かめるところに、チームとしての成果があります。

11.仮想事例で考える、急性期から退院までのつながり

ここでは理解のために、実在の患者ではない仮想事例を考えます。脳卒中で入院した70代のAさんは、配偶者と二人暮らしで、入院前は朝食の準備を担当していました。急性期治療後、上肢の麻痺と注意の問題があり、食事や更衣に介助が必要になっています。本人の目標は「また家で朝ごはんを用意したい」です。

急性期では、病状や医師の指示を確認し、まず食事と必要な意思表示への参加を支えます。皿の位置、上肢の支持、疲れにくい姿勢、声かけの量を調整し、どの方法で本人の参加が増えるかを記録します。ここで得た情報を回復期へ伝えると、次の担当者が同じ試行錯誤を最初から繰り返す負担を減らせます。

回復期では、食事や更衣の練習と並行して、朝食の準備を工程に分けて調べます。冷蔵庫から物を出す、皿を用意する、パンを温める、飲み物を注ぐ。麻痺側の手の使い方だけでなく、立位の安定、注意の切り替え、熱い物の扱い、途中で休む判断が必要です。本人の目標が、機能評価を生活に結びつける道しるべになります。

自宅の台所は、病院の練習環境と異なります。収納の高さ、動線、調理器具、床の状態、配偶者が支えられる時間を確かめます。すべての調理を一人で行うことが難しければ、配偶者が下準備をし、Aさんは盛り付けと飲み物を担当する方法も候補になります。役割を残しながら安全性と継続性を調整します。

退院時には、成功した方法だけでなく、難しかった条件も伝えます。疲れたときは工程が抜けやすい、複数の道具を同時に使うと混乱しやすい、休憩を促すと続けやすいなどです。こうした情報が、訪問リハや通所リハ、ケアマネジャーの計画に使われれば、病院の支援が地域の生活に接続します。

この事例の成果は、上肢機能の改善だけでも、朝食を一人で完成させたかどうかだけでもありません。本人が家庭で担える役割が見つかり、家族が無理なく支えられ、必要な支援を地域へ渡せたかまで考える必要があります。回復の結果を、暮らしの継続という広い視点で捉えることができます。

12.退院時の情報を、地域で使える言葉に翻訳する

病院からの情報提供には、診断名、身体機能、評価点数、訓練内容などが必要です。それに加えて、生活場面でどの方法が役立つかを伝えると、地域の支援者が実践に使いやすくなります。「移乗は見守り」だけでなく、椅子の位置、手すりの使い方、必要な声かけ、疲労時の変化を具体化します。

情報の量を増やせばよいわけではありません。退院後に最も起こりそうな困りごとと、それに対する方法を優先して整理します。本人が大切にしている活動、家族が不安に感じている点、残る医学的な注意事項も、関係者が同じ理解を持てるようにまとめます。

2026年改定では、医療から介護のリハへ移る際のケアマネジャー等との連携や、計画書の扱いも見直されています。[5] 書類の形式をそろえることに加えて、受け取った側が次の支援を始められる内容であるかを確認したいところです。連携したという記録と、生活がつながったという成果は区別して考えます。

退院先が自宅以外でも、生活に使える情報の必要性は変わりません。老健や施設でどの活動を継続するのか、どこに介助が必要か、本人が何を望んでいるかを伝えます。病院が目標を一方的に決めて引き渡すより、次の生活の場と相談しながら調整することが役立ちます。

13.記録と計画書は、支援の判断をつなぐためにある

作業療法の記録は、実施時間と訓練内容だけでは十分ではありません。どの生活課題を目標にし、どのような評価から介入を選び、結果をどう判断したかが分かると、別の担当者も支援を継続しやすくなります。本人や家族への説明にも使えるため、記録は臨床の一部として考えられます。

例えば、「上肢訓練を実施」よりも、「食事で器を支える目標に対し、座位での前腕支持を調整した。短時間は保持できたが、疲労で支持が崩れた」と書くほうが、次の介入を検討しやすくなります。医学的な所見、生活目標、反応をつなげて記録することが重要です。

計画書の簡素化や説明方法の見直しが進んでも、本人が理解し、意向を伝える過程まで不要になるわけではありません。2026年改定ではリハ実施計画書等の整理や署名欄の見直しが示されていますが、回復期リハ病棟では医師による説明の扱いに注意が必要です。[5] 書式上の変更と、説明・意思決定支援の必要性を分けて理解します。

良い記録は、文章が長い記録とは限りません。目的、判断の根拠、結果、次に試すことを短くつなげ、必要な人が読めるようにします。テンプレートを使う場合も、患者固有の情報が残るように工夫すると、形式を埋めるだけの作業になりにくくなります。

14.病院の成果を、単位数だけで評価しない

病院の運営には、収益、人員配置、稼働、診療報酬の適切な算定が欠かせません。作業療法を継続して提供するためにも、経営を理解する必要があります。ただし、実施単位数だけを成果にすると、生活の改善や患者の納得を見落とす可能性があります。

組織としては、介入開始までの時間、ADLの変化、退院支援の実施状況、事故、患者・家族の理解などを、目的に合わせて組み合わせて見る方法が考えられます。これは本稿の実践上の提案であり、全国共通の追加算定要件を示すものではありません。施設の機能や患者層によって、必要な指標は異なります。

数字を比較するときには、重症度や背景の違いにも注意します。重い障害や複雑な家庭事情を抱える人を多く受け入れる病院と、比較的軽い人が多い病院を、単純な改善量だけで順位づけすることは適切ではありません。結果だけでなく、どの人にどの支援を提供したかを併せて検討します。

数値と事例を一緒に振り返ると、改善すべき仕組みが見えやすくなります。退院前訪問を行っても情報が病棟に戻らない、休日の引き継ぎが曖昧、家族の練習日程が合わないなど、個人の技術だけでは解決しない問題があります。制度を学ぶことは、こうした組織の課題を見つける助けにもなります。

15.2040年に向けて、病院の外まで考える専門性が重要になる

地域医療構想に関する議論では、2040年に向けた85歳以上の人口、医療と介護の複合的なニーズ、地域ごとの人口構造、人材確保などが扱われています。入院医療だけでなく、外来、在宅、介護との連携を含めて提供体制を考える方向が示されています。[7][8] ただし、全国の地域が同じ速度、同じ形で変化するわけではありません。

この方向性から考えられる作業療法の課題は、複数の疾患と生活上の困難をまとめて捉えることです。脳卒中だけ、骨折だけという区分では説明しきれない人がいます。心不全、認知面の問題、栄養状態、独居、家族の高齢化が重なる場面で、何を優先すれば生活が続くかを考える必要があります。

デジタル技術も、情報共有や記録の負担を減らす手段になり得ます。ただし、入力した情報が本人の生活を正確に表しているか、個人情報を安全に扱えるか、判断の責任が明確かを確認する必要があります。作業療法の観察や本人との対話を省くためではなく、それに使う時間を確保するために活用したいところです。

将来の作業療法士には、直接の治療に加えて、病棟の介助方法を整える、家族に伝える、地域の支援者と相談する、道具や環境を調整するといった働きが求められるでしょう。これは政策資料から考える今後の見通しです。すべてが新たな独立報酬として評価されると断定することはできませんが、生活の継続に必要な専門性として考える価値があります。

16.明日からの臨床で、何を問い直すとよいか

まず、現在の目標が本人の生活とつながっているかを確かめてみます。「上肢機能の改善」という目標には、何をしたいから改善が必要なのかを添えます。本人が言葉で伝えにくい場合も、生活歴や実際の反応、家族からの情報を手がかりにしながら、本人の選択を確認する方法を探します。

次に、訓練室と病棟で方法がそろっているかを確認します。リハでは立って着替える練習をし、病棟では時間がないため全介助になっているなら、その理由をチームで話し合います。病棟職員の負担も考え、どの工程なら日常のケアに組み込めるかを調整することが現実的です。

最後に、退院後に困る場面を、退院直前まで待たずに想像します。家で一人になる時間、夜間のトイレ、薬の管理、通院手段などです。入院中に完璧に解決できなくても、必要な情報を集め、相談先へつなげることで、退院後に対応できる余地を残せます。

政策や診療報酬を学ぶ目的は、点数を覚えることだけではありません。社会が病院に求める役割を理解し、本人に必要な支援を提供できる仕組みをつくることです。病院の作業療法は、回復した機能を、その人が実際に生きる一日に結びつける専門性を持っています。

17.学びを深める関連書籍

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『脳卒中の機能評価―SIASとFIM[基礎編]』(千野直一ほか編著/金原出版、ISBN 9784307750332)は、評価の採点基準を学び、身体機能と生活動作を分けて考えたい人の参考になります。評価の基礎を扱う書籍であり、2026年の算定要件を確認する資料としては、厚生労働省の最新通知を別に読む必要があります。[9]

参考資料

勉強会資料『制度・政策から読み解く 作業療法の過去・現在・未来』の病院・急性期・回復期・地域包括ケア病棟に関する内容を再構成し、以下の一次資料を確認しました。臨床場面の例と実践上の提案は、本稿で説明のために作成したものです。

1. 日本作業療法士協会:作業療法の定義。

2. 日本作業療法士協会:日本作業療法士協会の歴史。

3. 厚生労働省:平成12年・診療報酬の算定方法の一部改正。回復期病棟創設の歴史資料。

4. 厚生労働省:令和8年度診療報酬改定の説明資料等。病院機能・入院医療に関する資料。

5. 厚生労働省:令和8年度診療報酬改定「リハビリテーション・医学管理」。早期・休日リハ、計画書等。

6. 厚生労働省:令和8年度診療報酬改定「包括的な入院医療」。回復期評価、連携体制等。

7. 厚生労働省:新たな地域医療構想に関する検討会とりまとめ。

8. 厚生労働省:精神医療に関する地域医療構想検討ワーキンググループ・第1回議事録。2040年に向けた医療・介護連携の背景。

9. 金原出版:脳卒中の機能評価―SIASとFIM[基礎編]。

10. 厚生労働省:令和8年度診療報酬改定・告示、通知、疑義解釈等。個別算定を確認する際の入口。

11. 厚生労働省掲載資料:言語聴覚士を取り巻く環境の変化。別添資料3、疾患別リハ等の年表。

12. 厚生労働省:平成26年度診療報酬改定・地域包括ケア病棟のイメージと要件。創設時の歴史資料。現在の算定条件を示す資料とは区別。

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