「施設では歩けているのに、家に帰る話になると不安が残る」。介護老人保健施設、いわゆる老健では、こうした場面が珍しくありません。移動能力が改善しても、自宅の段差、夜間のトイレ、食事の準備、家族の体力、利用できるサービスなど、暮らしを支える条件がそろわなければ在宅生活は始めにくいからです。
老健のリハビリテーションを理解するためには、「何ができるようになったか」に加えて、「その能力を、どの暮らしで、どんな支えとともに使うのか」を考える必要があります。作業療法は、その間をつなぐ専門性です。食事や更衣の動作だけでなく、習慣、役割、環境、家族との関係まで含めて、日々の生活を整えていきます。
この記事では、勉強会の内容をもとに、老健の役割、介護報酬、LIFE、認知症支援、在宅復帰を一つの流れとして読み解きます。制度は2026年10月4日時点で確認しました。2024年度の本体改定と、処遇改善等を扱う2026年度の期中改定を区別し、今後の検討事項を確定した制度として書かないように整理しています。
- 1.老健は、医療と日常生活の間をつなぐ場所
- 2.介護保険の考え方から、老健のリハビリを理解する
- 3.老健の目標は、機能・活動・参加をつなぐと具体的になる
- 4.在宅復帰は、退所の日だけで判断しない
- 5.短期集中リハの評価から、計画を見直す意味を読む
- 6.認知症のリハビリは、記憶テストの点数だけでは捉えられない
- 7.認知症基本法と基本計画が、現場に投げかける問い
- 8.LIFEは、提出したデータをケアの改善へ戻す仕組み
- 9.リハビリの時間と、生活の時間をつなげる
- 10.食事は、リハビリ・栄養・口腔をつなぐ生活行為
- 11.家の環境を知ると、訓練の優先順位が変わる
- 12.家族への説明は、介助の練習と負担の確認を一緒に行う
- 13.仮想事例で考える、老健から自宅への準備
- 14.2026年度の期中改定と、これからの改定を分けて読む
- 15.成果を見るときは、数字と本人の生活を組み合わせる
- 16.これからの老健で、作業療法が担えること
- 17.学びを深める関連書籍
- 参考資料
1.老健は、医療と日常生活の間をつなぐ場所
厚生労働省の介護サービス情報では、老健は、在宅復帰に向けたリハビリテーションや必要な医療、介護を提供する施設として説明されています。[1] 病院での治療が一段落しても、すぐに自宅生活へ戻ることが難しい人にとって、生活の準備を進める場になります。施設で過ごすこと自体に加えて、その先の暮らしを見据えるところが特徴です。
同じ入所施設でも、制度上の目的や提供する医療の範囲は異なります。老健、特別養護老人ホーム、介護医療院を、すべて「高齢者が長く暮らす施設」とまとめてしまうと、何を期待して利用するかが曖昧になります。老健では、本人の状態と生活環境を評価し、在宅生活に必要な支援を整えることが重要になります。
ただし、在宅復帰という言葉を、「全員が短期間で自宅へ戻るべきだ」と受け取ることはできません。病状、介護の必要性、住まい、本人の希望、家族の事情はそれぞれ異なります。施設の機能として在宅を支えることと、一人ひとりに安全で納得できる生活の場を選ぶことを、両方考える必要があります。
作業療法士は、施設内での動作だけでなく、入所前にどんな一日を送っていたか、何を続けたいか、どの場面で困りそうかを確認します。「帰る場所」の情報があるほど、リハビリの目標は具体的になります。反対に、行き先が決まっていなくても、本人の希望や支援の必要性を整理することはできます。
2.介護保険の考え方から、老健のリハビリを理解する
2000年に介護保険制度が始まり、介護サービスを利用するための公的な仕組みが整いました。[2] 医療保険のリハビリテーションが疾患や治療の必要性を基盤に組み立てられるのに対し、介護の場では、日常生活を継続するために何が必要かという視点が特に重要になります。両者は対立するものではなく、必要な医療と暮らしの支援をつなぐ関係です。
老健での作業療法も、病院で行っていた訓練を、そのまま同じ目的で続けるだけでは十分ではありません。入所後の生活や退所後の環境に合わせて、目標を更新する必要があります。病院で評価された能力が、施設の生活ではどう使われているか、本人や介護職員がどの方法で困っているかを確かめます。
例えば、「歩行能力の向上」という病院の目標を引き継ぐ場合も、その人にとって歩く目的を考えます。自宅のトイレまで行くためなのか、近所へ買い物に出るためなのか、施設内で食堂に移動するためなのか。距離、方向転換、荷物、疲労、周囲の刺激など、実際に必要な条件は変わります。
介護保険の自立支援を、「人の手を借りないこと」とだけ理解するのも狭い捉え方です。援助を受けながら、自分で選び、できる部分を行い、大切な活動を続けることもあります。介助を減らす目標と、本人の参加を増やす目標を重ねながら、生活全体として考えたいところです。
3.老健の目標は、機能・活動・参加をつなぐと具体的になる
筋力、関節可動域、バランス、注意、記憶などは、生活行為を支える機能です。一方、服を着る、食事をする、トイレに移るといった行為は活動であり、家族と食卓を囲む、家事の役割を担う、地域の集まりに出ることは参加として考えられます。生活機能を整理するICFの視点は、このつながりを理解する助けになります。[3]
作業療法では、本人が望む参加から、必要な活動と機能を逆にたどることができます。「孫とおやつを食べたい」という願いがあれば、椅子に座る、手で食器を扱う、会話に参加する、疲れたら休むといった課題が見えてきます。目的が明らかになると、単独の機能訓練にも生活上の意味を持たせやすくなります。
環境も、同じくらい大切です。身体の状態が変わらなくても、椅子の高さ、手すり、食器、照明、声かけの方法で参加しやすさが変わることがあります。本人だけを変えるのではなく、本人と環境の関係を調整することが、介護の現場では特に重要です。
目標を共有するときには、「ADL改善」だけで終えず、「昼食時、肘を支持した姿勢で主食を自分で食べる」など、生活場面と必要な条件を添えます。これは説明のための目標例で、全員に同じ目標を当てはめるものではありません。本人の優先事項と施設の生活に合わせて決めることが必要です。
4.在宅復帰は、退所の日だけで判断しない
在宅復帰を考えるときには、施設から出られるかだけでなく、帰った後に生活が続くかを見たいところです。退所直後は家族が仕事を休んで支えられても、その後は難しくなることがあります。日中に一人になる時間、通院、食事、夜間の対応まで、生活の時間軸を広げて確認します。
本人と家族の希望が、最初から一致しているとは限りません。本人は自宅に戻りたいが、家族は再転倒を心配している。家族は戻ってほしいが、本人は介護の負担をかけたくないと感じている。どちらかを説得することだけに集中せず、それぞれが不安に感じる具体的な場面を聞くと、相談できる課題に変わります。
在宅復帰・在宅療養支援機能に関する評価は、老健が地域の在宅生活を支えるための仕組みとして位置づけられています。[4] ただし、施設の指標と、本人に適した退所先の判断は分けて考えます。数字をよくするために、本人の希望や必要な支援を置き去りにすることは避ける必要があります。
退所後の計画には、訪問・通所サービス、福祉用具、家族以外の援助、相談先などを組み合わせます。支援の開始が遅れると、施設でできていた活動を自宅で行う機会が失われることも考えられます。ケアマネジャーなどと早めに相談し、必要な支援が途切れにくい準備を進めます。
5.短期集中リハの評価から、計画を見直す意味を読む
2024年度介護報酬改定では、老健の短期集中リハビリテーション実施加算にⅠとⅡの区分が設けられました。改定概要ではⅠを258単位/日、Ⅱを200単位/日とし、算定期間は入所後3か月以内としています。Ⅰでは、原則として入所時と月1回以上のADL等の評価、LIFEへの情報提出、必要に応じた計画の見直しが示されています。[4]
この3か月という期間は、すべての入所者の滞在期間を一律に決めるものではありません。また、期間内なら内容を問わず自動的に算定できるという意味でもありません。対象、実施方法、医師の指示、その他の条件を、告示と留意事項で確認する必要があります。
臨床上の意味を考えると、短期集中という言葉は、同じ訓練を多く繰り返すことだけを指すものではありません。限られた時期に生活課題を見極め、実施し、反応を確認し、必要なら方法を変えることが大切です。最初の計画を最後まで変更しないことより、評価に基づいて計画を更新できることが重要になります。
例えば、移乗練習を続けても食堂やトイレでは介助量が変わらないなら、練習する場所、椅子の高さ、声かけ、疲労を調べます。動作の一部だけが改善しているのか、生活に使う条件がそろっていないのかを整理します。評価は、成果を報告するためだけでなく、次に何を変えるかを決めるために行います。
リハビリテーションマネジメント計画書情報加算をどう読むか
老健には、リハビリテーションマネジメント計画書情報加算もあります。2024年度改定後の制度ではⅠとⅡの区分が示され、計画書の情報や、リハビリテーションと栄養・口腔の連携などが関わります。[14] 短期集中リハの加算と名称や目的が異なるため、同じものとして扱わず、それぞれの条件を確認します。
臨床に置き換えて考えると、管理する対象は書類だけではありません。本人の目標に対して、どの職種が何を行い、どの評価で変化を確かめ、いつ計画を更新するかを共有することが重要です。例えば、食事への参加を増やす目標なら、姿勢の調整と栄養面の方針が別々に進んでいないかを確認します。
計画を本人や家族に説明するときにも、加算の名称より、生活で何が変わるのかを伝えるほうが理解につながります。評価結果を提出することと、本人が目標を理解して選べることを一緒に整える。制度の情報を、毎日の支援を見直す手がかりとして使いたいところです。
6.認知症のリハビリは、記憶テストの点数だけでは捉えられない
老健では、認知症や認知機能の低下がある人への支援も重要です。記憶の障害があっても、慣れた動作、好きな活動、人との関わり方など、残っている力は人によって異なります。何が難しいかを調べることと、どの条件なら参加できるかを見つけることを、同時に進めます。
認知症短期集中リハビリテーション実施加算は、認知症の状態に応じた専門的なリハを評価する制度です。[4] この加算があることを、認知症そのものを短期間で治すという意味に置き換えることはできません。生活上の困難や本人の反応を踏まえて、必要な支援を検討するための制度として理解します。
例えば、食器を見ても食べ始められない人には、手順の理解、注意、視覚的な分かりやすさ、食欲、口腔の問題などを考えます。単に「認知症だから」と説明を終えると、調整できる要因を見逃しかねません。変化が急である、痛みがある、意識状態がいつもと違う場合には、医療職と連携して評価する必要があります。
本人の行動を、支援者にとって都合がよいかだけで判断しないことも大切です。立ち上がる行動には、トイレへ行きたい、居心地が悪い、以前の習慣を続けたいなどの意味があるかもしれません。行動の前後と環境を観察し、本人が何を求めているのかを考えることが、作業療法の生活視点につながります。
7.認知症基本法と基本計画が、現場に投げかける問い
認知症基本法は2024年1月に施行され、同年12月には認知症施策推進基本計画が閣議決定されました。本人の声を起点に、意思決定支援、社会参加、生活上の障壁への対応などを考える方向が示されています。[5][6] これは、認知症を「できなくなること」だけで説明しない視点にもつながります。
老健の作業療法で考えるなら、活動を提供する前に、本人が何を望むかを確認する必要があります。言葉で答えにくい人であっても、選択肢を少なくする、実物を見せる、時間帯を変えるなど、意向を示しやすい方法を探すことができます。家族の情報は役立ちますが、本人の今の反応も大切にします。
「参加してもらう」ことだけを目標にすると、活動への出席が成果になってしまうことがあります。本人が心地よく過ごせたか、役割を感じられたか、嫌だという意思を示せたかも考えたいところです。途中で休む、見ているだけにする、別の活動を選ぶことも、本人の選択として尊重します。
意思決定支援と安全への配慮は、どちらも必要です。危険がある行為については、その内容を評価し、本人の希望を残せる方法を検討します。すべてを禁止するか、そのまま任せるかの二択にせず、道具、環境、見守り、時間を調整することで選択肢を増やせる場合があります。
8.LIFEは、提出したデータをケアの改善へ戻す仕組み
LIFEは、生活機能、栄養、口腔などの情報を活用し、ケアの質の向上につなげる科学的介護情報システムです。厚生労働省の資料や研修では、情報の提出に加えて、フィードバックを活用し、評価と計画を見直す過程が扱われています。[7][8] 提出の完了だけで、質の高いケアが実現するわけではありません。
例えば、ADLの値が低下していたとしても、その数値だけで原因は決まりません。病状の変化、疼痛、栄養、意欲、環境、介助方法などを調べる必要があります。データは、何を確かめるべきかを見つける手がかりです。数値の変化と、実際の生活場面の観察を組み合わせると、次の支援を考えやすくなります。
施設全体の情報を見るときにも、利用者の背景に注意します。重い障害や複雑な病状がある人が多い施設と、比較的軽い人が多い施設では、数値の意味が異なります。平均値だけで優劣を決めるのではなく、対象者の特徴と、提供している支援の内容を併せて考えます。
実務では、評価日、入力方法、担当者、確認の手順をそろえることも重要です。現場で起きた変化が入力に反映されない、複数の職種で同じ項目の理解が異なる、といった問題があれば、数字を見直しても判断しにくくなります。データの活用は、記録の質とチームの共通理解から始まります。
9.リハビリの時間と、生活の時間をつなげる
老健で本人が過ごす一日は、個別リハの時間よりもはるかに長くあります。食事、更衣、排泄、移動、余暇、人との交流に、実際の生活の多くが含まれます。そのため、作業療法で見つけた方法が日常のケアに反映されなければ、使える機会は限られてしまいます。
例えば、移乗の方法を検討する際には、作業療法士が担当する場面だけでなく、介護職員が日々行う場面も確認します。ベッドの高さ、車椅子の置き方、声かけのタイミング、本人の疲労によって、方法が変わることがあります。実際の生活場面を一緒に見て、無理なく続けられる方法を相談します。
介護職員に「自立を促してください」と伝えるだけでは、具体的な行動につながりにくいことがあります。どの工程を待つか、どこを介助するか、危険な反応は何かを共有すると、支援がそろいやすくなります。一方で、業務の忙しさや人員配置も考慮し、現場で実行できる方法に調整する必要があります。
作業療法士が自分の担当時間以外のケアを整えることは、直接訓練とは形が異なりますが、本人の生活に大きく関わります。助言をした回数ではなく、本人が活動に参加できる機会が増えたか、介助が安定したかを確認したいところです。チームの実践に結びついて初めて、専門的な評価が生活に届きます。
10.食事は、リハビリ・栄養・口腔をつなぐ生活行為
食事は、老健の連携を考えるうえで分かりやすい場面です。姿勢を保つ、食器を扱う、食べ物を認識する、口へ運ぶ、噛む、飲み込む、必要な量を摂るという、複数の機能と環境が関わります。一つの職種だけで全体を評価しきることは難しく、役割を分担しながら情報を合わせます。
作業療法士は、座位、上肢の使い方、注意、道具、食事への参加などを観察します。栄養面や嚥下、口腔の専門判断は、それぞれの専門職と連携して進めます。2024年度の介護報酬改定では、リハビリテーション、栄養、口腔の一体的な取り組みも重視されています。[4]
例えば、食事の後半に残す量が増える人に対しては、「食欲がない」と結論を急がず、姿勢が崩れていないか、道具が扱いにくくないか、痛みや疲労がないかを確認します。管理栄養士などに食事量の変化を伝え、必要な医療的評価につなげます。生活場面の観察が、専門的な評価を結びつける役割を持ちます。
一体的な取り組みは、同じ日に会議を開くことだけではありません。食事前の離床、椅子と机の高さ、介助方法、食事時間、休憩など、本人の生活で実行する方針をそろえます。変更した後に、食べやすさや負担がどう変わったかを確認して、必要なら再び調整します。
11.家の環境を知ると、訓練の優先順位が変わる
施設の廊下を歩けることと、自宅で生活できることには違いがあります。家では狭い場所で方向転換する、敷居を越える、暗い夜間に移動する、物を運ぶなど、複数の条件が重なります。本人の能力を正確に見るためには、その能力を使う環境も把握する必要があります。
家屋情報は、広さや段差の高さだけではありません。普段どの部屋で過ごすか、寝室とトイレの距離、食事をする場所、家族が家にいる時間、本人が使い慣れた道具も重要です。可能な範囲で家屋評価や写真、家族からの情報を用い、施設の練習を生活に近づけます。
福祉用具を使えば解決する課題もありますが、道具を置くだけでは十分でない場合があります。本人が使い方を覚えられるか、家族が扱えるか、動線が確保できるか、保守や費用はどうするかを確認します。道具の選定と、その道具を使う生活の調整を一緒に行います。
住宅改修や介護サービスの判断では、ケアマネジャーなどと役割を分担します。作業療法士は、本人の動作と環境の関係を説明し、どんな条件なら活動が成立するかを具体化できます。専門職が一人で全体を決めるのではなく、本人と家族、関係者が選択できる情報を提供することが大切です。
12.家族への説明は、介助の練習と負担の確認を一緒に行う
家族が本人を大切に思っていることと、毎日介護を続けられることは同じではありません。配偶者の体力、仕事、睡眠、持病、他の家族への対応など、家族にも生活があります。在宅復帰の準備では、介助方法を教えるだけでなく、誰がどの時間帯に担えるかを確認する必要があります。
介助練習では、作業療法士ができる方法をそのまま家族に求めないことが重要です。力のかけ方、姿勢、道具、必要な人数を確かめ、家族にとって無理のない方法を検討します。負担が大きい場合は、サービスや環境を見直すことも選択肢になります。
説明は、専門用語を減らして生活場面に結びつけると伝わりやすくなります。「遂行機能に問題があります」だけでなく、「朝は一つずつ準備すると進みやすいですが、複数の用事を同時に伝えると抜けることがあります」と具体化します。家族が困ったときに使える情報に変えることが目的です。
本人の前で、できないことだけを家族に並べる説明も避けたいところです。できること、必要な支援、今後確かめたいことを、本人の意向と合わせて共有します。家族の安心をつくりながら、本人の尊厳と役割が残る方法を考えることが、生活支援の大切な部分です。
13.仮想事例で考える、老健から自宅への準備
実在の利用者ではない仮想事例を考えます。80代のBさんは大腿骨の骨折後に老健へ入所し、軽度の認知面の問題もあります。入所前は夫と暮らし、洗濯物をたたむことと庭の花の世話を楽しんでいました。移動には介助が必要で、家族は夜間のトイレと再転倒を心配しています。
初めの評価では、歩行能力だけでなく、排泄の時間帯、更衣、痛み、疲労、説明の理解、本人の希望を確認します。トイレに行きたいことを伝えられるか、呼び出しを使えるか、移動中に急ぐ傾向があるかも調べます。本人の「帰りたい」という希望を、実際の生活課題に結びつけて整理します。
練習では、施設のトイレで成功する方法を探し、介護職員と共有します。家族から自宅の動線と夜間の介助の状況を聞くと、同じ方法をそのまま使うことが難しいと分かりました。手すりや寝室の配置、サービスの利用などを関係者と相談し、複数の選択肢を比べます。
洗濯物をたたむ活動では、座位の安定、上肢の操作、注意の持続、疲れやすさを観察できます。本人が慣れた活動であるため、何をどこまで担いやすいかを確認しやすくなります。楽しさや役割を大切にしながら、作業量を調整し、無理のない参加方法を検討します。
庭の花の世話については、屋外移動としゃがむ動作を一律に目標にするより、まず室内から見られる鉢の世話や、椅子に座ってできる作業を提案する方法があります。本人がそれを望むかを確認し、家での環境を調整します。好きな活動の目的を残しながら、方法を変えることができます。
退所前には、本人と家族が実際に行う介助を確認し、難しい場面と相談先をまとめます。退所後に状態が変わることも想定し、ケアマネジャーなどに必要な情報を渡します。この事例では、歩ける距離に加えて、排泄の方法、家族の負担、本人の役割を一緒に整えることが在宅生活の準備になります。
14.2026年度の期中改定と、これからの改定を分けて読む
介護報酬の勉強では、資料が何年度の改定を説明しているかを確認することが重要です。老健の短期集中リハやLIFEなど、本稿で紹介した主要な見直しは2024年度改定の内容です。一方、2026年度には、介護職員の処遇改善などに対応する期中改定が行われています。[9]
したがって、「介護報酬の最新改定は2024年」とだけ説明すると、2026年の動きを見落とします。逆に、2026年の資料があるからといって、2024年に設けられたリハの仕組みがすべて置き換えられたと考えることもできません。どの項目が改正され、どの項目が継続しているかを、資料ごとに確認します。
さらに、2027年度改定に向けた議論も進んでいます。[10] 審議会の論点、調査結果、提案は、将来の方向を考える材料になりますが、その時点で最終的な算定要件が決まったことを意味しません。検討中の内容と、すでに施行された制度を分けて伝える必要があります。
実務では、概要資料で変更の全体像をつかみ、告示と留意事項で対象や条件を確認し、疑義解釈で具体的な扱いを確かめます。更新日と施行時期も合わせて記録すると、古い資料を現在の制度として使うリスクを減らせます。制度を学ぶ際のこの手順は、改定のたびに役立ちます。
15.成果を見るときは、数字と本人の生活を組み合わせる
老健の運営には、入退所の流れ、稼働、人員、適切な算定などの管理が必要です。リハビリテーションの体制を維持するために、経営を理解することも大切です。そのうえで、利用者の生活がどう変わったかを、施設の数字と一緒に考えます。
ADLの変化、在宅復帰に関する情報、退所後の支援、本人の参加、家族の負担などを組み合わせる方法が考えられます。これは本稿の実践上の提案で、全国共通の新しい算定要件を示すものではありません。施設の役割や利用者の特徴に合わせて、何を改善したいかから指標を選ぶ必要があります。
改善が小さい人にも、ケアの成果はあり得ます。残っている機能を使って食事に参加できる、疲れたときに休める、家族が無理なく支えられるなど、生活の安定にはさまざまな形があります。数値の上昇だけを求めると、維持や環境調整の意味を見落としかねません。
事例を振り返る際には、個人の努力だけでなく、施設の仕組みを検討します。家屋情報の収集が遅い、リハの方法が介護職へ伝わらない、退所後のサービス開始が合わないといった問題です。数字で気づき、事例で理由を探し、次の実践を変える流れをつくると、評価が改善につながります。
16.これからの老健で、作業療法が担えること
2040年に向けた医療・介護の議論では、85歳以上の人や複合的なニーズへの対応、人材の確保が課題として扱われています。[11] 複数の疾患、認知症、栄養の問題、独居、家族の高齢化などが重なると、一つの訓練やサービスだけでは生活を支えにくくなります。地域ごとの人口や資源の違いも考える必要があります。
この方向性から考えられる老健の役割は、施設内のリハに加えて、在宅生活の準備と地域の支援を結ぶことです。作業療法士には、本人の力を見つけ、生活課題を具体化し、家族や他職種へ伝える働きが重要になるでしょう。直接訓練だけでなく、毎日のケアを整えることも専門性の一部として考えられます。
デジタル化は、情報共有や記録の重複を減らす手段になり得ます。LIFEを含むシステムを使う際には、最新の運用案内を確認し、本人の情報を適切に扱うことが必要です。[7] 技術の導入そのものを成果にせず、観察や対話に使う時間が増え、支援の判断が分かりやすくなったかを確かめたいところです。
老健の作業療法は、機能を回復させる支援と、今ある力で暮らしを成立させる支援をつなぎます。介護報酬を学ぶことは、その働きを続けられる体制を理解することでもあります。本人がどこで、誰と、何を大切にして暮らしたいのか。その問いに戻ると、評価、訓練、ケア、在宅復帰の準備が一つの流れとして見えてきます。
17.学びを深める関連書籍
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『Evidence Basedで考える認知症リハビリテーション2―BPSDの評価と介入戦略[Web動画付]』(田平隆行・田中寛之編/医学書院、ISBN 9784260056694)は、認知症の行動・心理症状の背景を評価し、根拠と実践を結びつけて考えたい専門職の参考になります。介護報酬の算定マニュアルではないため、制度の条件は公式通知で別に確認します。[12]
参考資料
勉強会資料『制度・政策から読み解く 作業療法の過去・現在・未来』の老健、介護保険、認知症、LIFEに関する内容を再構成しました。臨床例は説明のための仮想事例で、将来の専門性や指標の提案は本稿の考察です。
1. 厚生労働省・介護サービス情報公表システム:介護老人保健施設。
2. 厚生労働省:介護保険制度の見直しについて。2000年の制度施行に関する歴史資料。
3. WHO:International Classification of Functioning, Disability and Health(ICF)。生活機能と環境の枠組み。
4. 厚生労働省:令和6年度介護報酬改定における改定事項。老健、短期集中リハ、認知症リハ等。
5. 厚生労働省:共生社会の実現を推進するための認知症基本法。
6. 厚生労働省:認知症施策。認知症施策推進基本計画等。
7. 厚生労働省:科学的介護。LIFEの運用・活用資料。
8. 厚生労働省:LIFE説明会資料・動画。
9. 厚生労働省:令和8年度介護報酬改定。2026年度の期中改定。
10. 厚生労働省:社会保障審議会・介護給付費分科会。2027年度改定に向けた検討等。
11. 厚生労働省:新たな地域医療構想に関する検討会とりまとめ。
12. 医学書院:Evidence Basedで考える認知症リハビリテーション2。
13. 厚生労働省:令和6年度介護報酬改定・告示、通知、疑義解釈等。個別の算定条件は最新の掲載資料で確認。
14. 厚生労働省:指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準。老健のリハビリテーションマネジメント計画書情報加算等。


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